● 気づきの偶像 |
2017年7月27日 ファインダー越しに見える「美」のエネルギー 遠藤湖舟
私はもともと科学者になりたかった。科学者は、日々、実験や観察を行い、経過を見つめることが仕事です。しかし、それは科学の分野だけではなく、事の本質を捉える上で、とても大切なことだと思っています。しっかりと対象を凝視しないと本質は見えてきません。
そうした理由から、本質を見るための一つの手段として写真を撮っています。日々の暮らしの中では、様々な事象が流れていきます。その中、大切なものも見逃してしまっているのではないかと思っています。だから、あえて一旦、時間を止めて物事をじっくりと考えることも必要なのです。人の目は、すべて主観的です。だから、写真で客観的に瞬間を捉え対象を見つめるという複眼的視点が大切だと思っています。 写真一点からどの方向へいくかは、見た人本人の想像力に委ねられています。実際に写真展を訪れてくださった方の中には写真を見て涙された方もいらっしゃいました。人類に限らず、地球上にある生命体は、すべて太陽がもたらしてくれています。写真を見て涙されたということは、皆さんの中にある感性が、無意識にそれを捉えたのではないかと思います。 [2016年4月1日発行『構想の庭』第2号 再録] 世界は、もはや「グローカル」という新しい時代に突入していると思います。今、物ではなく体験が売れる時代です。それは、訪れた観光客が文化体験を購入していることからも明らかです。それが、いまの時代の商品です。そういった豊富な商材を持ち合わせているのが、地方です。
日本各地には、それぞれ独特の文化があり、個々の価値を持っています。私はそれを「文化資源」と呼んでいます。文化資源は歴史と伝統がつくりだし、日々、堆積していくものです。それが熟成し、やがて発酵していきます。それは、独特の匂いを発しますが、その癖のある匂いも徐々に芳醇な香りとなって深みのある味わいを醸し出していきます。その香りこそが地域に眠る財産であり、その価値をヨソモノが発見してくれます。日本はすでに成長期を終えた社会です。これからの高齢化や人口減少を考えたとき、ヨーロッパのような熟成感のある滅び方を考える必要があります。国民国家の歴史はたかだか2世紀余り、国家が滅びても都市は生きのびるでしょう。京都はそういう生きのびる都市のひとつでしょう。
これまでのやり方では通用しない、ギアチェンジしなければならないのに、今の日本にはそのための動機付けとなる危機感が不足しているのではないでしょうか。戦略的な視点から、利用可能な文化資源を最大限活用した地方や都市の経営を推進していってもらいたいものです。
[2015年8月1日発行『構想の庭』第1号 再世界は、もはや「グローカル」という新しい時代に突入していると思います。今、物ではなく体験が売れる時代です。それは、訪れた観光客が文化体験を購入していることからも明らかです。それが、いまの時代の商品です。そういった豊富な商材を持ち合わせているのが、地方です
遠藤湖舟(えんどうこしゅう) 1954年長野県生まれ。早稲田大学理工学部応用化学科卒業。アートシーン、人物、風景、天体写真など幅広い撮影を手掛ける一方、デザイン、コピーライトなど総合的なアート表現を行う。2015年、日本橋髙島屋を皮切りに京都、大阪、横浜の髙島屋で大規模写真展を開催、約8万人を動員した。
|