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2017年7月29日

「おもろいこと」が世界を変える 山極壽一

 


 

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  今、大学に課せられたミッションは長期的な視座を持った「未来人材」を育成することだと思っています。今、世界は地球資源が有限であることに気づき、閉塞感の中にいます。今こそ、進化という視点で人間はどのような能力を持っているか改めて考えるべき時です。

  そもそも現代人が楽しんでいる野球やサッカーは、それ自体を目的として進化した能力ではありません。人類は、猿人から約700 万年の時を経て、様々な能力を手にしてきました。それは現在のように近代的な機器を応用する能力ではなく、生身の体で自然と接していく能力です。つまり、別の目的のために進化した能力が、今の暮らしの中で応用されているということです。5 ~ 10 数万年前に人は画期的な知恵となる言葉を得ました。しかし、現代の社会ではSNS の普及とともに感情を逆なでするような言葉の暴力に晒されています。

しかし、いまさら後戻りはできません。IT 技術と賢く付き合っていく必要があると思っています。バーチャルと身体を一体化させることで人は命のつながりに快感を覚え、人間の生きるエネルギーに転化させています。今、IT 技術に求められる課題とは人にどういう幸福感を与えられるかだといえるでしょう。そういう生きるためのエネルギーとなる「おもろいこと」が発想できる「未来の人材」を大学で育てていきたいと思っています。

[2016 年4 月1 日発行『構想の庭』第2号 再録]

日本各地には、それぞれ独特の文化があり、個々の価値を持っています。私はそれを「文化資源」と呼んでいます。文化資源は歴史と伝統がつくりだし、日々、堆積していくものです。それが熟成し、やがて発酵していきます。それは、独特の匂いを発しますが、その癖のある匂いも徐々に芳醇な香りとなって深みのある味わいを醸し出していきます。その香りこそが地域に眠る財産であり、その価値をヨソモノが発見してくれます。日本はすでに成長期を終えた社会です。これからの高齢化や人口減少を考えたとき、ヨーロッパのような熟成感のある滅び方を考える必要があります。国民国家の歴史はたかだか2世紀余り、国家が滅びても都市は生きのびるでしょう。京都はそういう生きのびる都市のひとつでしょう。
これまでのやり方では通用しない、ギアチェンジしなければならないのに、今の日本にはそのための動機付けとなる危機感が不足しているのではないでしょうか。戦略的な視点から、利用可能な文化資源を最大限活用した地方や都市の経営を推進していってもらいたいものです。
[2015年8月1日発行『構想の庭』第1号  再世界は、もはや「グローカル」という新しい時代に突入していると思います。今、物ではなく体験が売れる時代です。それは、訪れた観光客が文化体験を購入していることからも明らかです。それが、いまの時代の商品です。そういった豊富な商材を持ち合わせているのが、地方です
 

山極壽一(やまぎわじゅいち)

1952年東京都生まれ。日本のゴリラ研究の第一人者。京都大学理学部卒、同大学院理学研究科博士課程修了。カリソケ研究センター客員研究員、京都大学大学院理学研究科助教授を経て、同研究科教授。2014 年10 月から京都大学総長、現在に至る。近著に『父という余分なもの--サルに探る文明の起源』(新潮文庫)ほか多数。

 

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