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2017年7月30日 「微力だけど、無力じゃない。」 田中康夫
1981年に刊行した処女作『なんとなく、クリスタル』(1981 年刊)の最後に、合計特殊出生率と高齢化率の将来予測数値を付記しました。当時24 歳の僕は、「量の拡大」から「質の充実」へ、認識と選択を転換せねば日本は立ち行かなくなると、漠然とながらも感じていたからです。 その35年後、衝撃的だった予測すら遙かに超える合計特殊出生率1.42、高齢化率26.7%の超少子・超高齢社会に突入し、日本は黄昏かも知れないと少なからぬ人々が不安を感じています。けれども、実はタイの合計特殊出生率は日本と同じ1.4台。ヴェトナムも1.7 台。平均年齢が若いASEAN 諸国も30 数年後には、日本と同じく逆ピラミッドの人口構造へと陥るのです。 嘗て、日の入りは「誰そ彼(たそかれ)」、夜明け前は「彼は誰(かわたれ)」と呼ばれました。そうして後者の「彼は誰」は、江戸初期まで両方の時間帯を指す言葉でした。即ち、一人ひとりが五感を働かせて、向こうに立っている人が誰かを見極めねばとの意味合い。 とするなら、「量の維持」でなく「質の深化」へと認識と選択を転換し、IOT の時代たればこそ、人が人のお世話をして初めて成り立つ福祉・医療・教育・環境の分野で新しい労働集約的産業のあり方を構築してこそ、世界に先駆けて21 世紀のロールモデルを日本から発信する「彼は誰」=夜明けとなるのです。 [2016 年4 月1 日発行『構想の庭』第2 号 再録] これまでのやり方では通用しない、ギアチェンジしなければならないのに、今の日本にはそのための動機付けとなる危機感が不足しているのではないでしょうか。戦略的な視点から、利用可能な文化資源を最大限活用した地方や都市の経営を推進していってもらいたいものです。
[2015年8月1日発行『構想の庭』第1号 再世界は、もはや「グローカル」という新しい時代に突入していると思います。今、物ではなく体験が売れる時代です。それは、訪れた観光客が文化体験を購入していることからも明らかです。それが、いまの時代の商品です。そういった豊富な商材を持ち合わせているのが、地方です
田中康夫(たなか やすお) 1956 年東京都武蔵野市生まれ。作家。一橋大学法学部在学中に『なんとなく、クリスタル』で「文藝賞」を受賞。2000 年~ 06 年長野県知事、2007 年~ 12 年参議院議員、衆議院議員を務める。近著に『33 年後のなんとなく、クリスタル』『たまらなく、アーベイン』(ともに河出書房新社)。http://tanakayasuo.me/
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