私が学生だった頃の教科書には、人生の区分は第一期「子ども」第二期「大人」第三期「老人」でした。ところが“寿命革命”によって、新しいライフステージが与えられました。新しい人生区分は第三期「前期高齢者」第四期「後期高齢者」。もしかすると第五期ができるかもしれません。
個人差は大きいですが、第四期は年齢にすると75~80歳くらいからです。もちろん昔から80歳、90歳の方はいらしたのですが、1950年頃は稀でした。ところが、現在では普通に生きて70~80歳です。しかも、第四期の体と心の変化、生活のニーズについてあまり理解されていませんし、必要なモノやサービスもできていません。後期高齢者はほとんどの人が、認知症か要介護かという誤った印象を持たれています。私は心外です。ほとんどの人が、普通の生活をして年令なりにお元気なのです。大きなマーケットの開拓の余地があるのに、目を向けられていません。
長寿社会の課題は2つあります。1つは個人の、もう1つは社会の課題です。
まず個人の課題ですが、人生50年から90年と倍近く長くなり、ワンパターンの生き方から多様な人生設計が可能になりました。以前と異なり、いまは「結婚する、しない」「子どもを産む、産まない」「転職する、しない」なども含め本人が選択します。自分の人生を自分で設計して生きていく時代になったのです。しかも、90年あります。多様な人生設計、多毛作人生も可能です。キャリアは1つだけでなく、例えば40代で大学に入り直して、第2の人生を迎えることもできます。まったく違うキャリアを2つ行うことも可能です。
もう1つは社会の課題。現在の社会インフラ・制度ができた頃は若い人が多く、人口はピラミッド型をしていました。ところが現在は4人に1人が高齢者。都市計画や建物などハードのインフラだけでなく、医療や福祉、教育なども含め、ソフトのインフラのつくり直しをする必要があります。
【Profile】 あきやま・ひろこ
イリノイ大学でPh.D(心理学)取得、米国の国立老化研究機構(National Institute on Aging)フェロー、ミシガン大学社会科学総合研究所教授、東京大学大学院人文社会系研究科教授(社会心理学)、日本学術会議副会長などを経て、現在、東京大学高齢社会総合研究機構特任教授。専門はジェロントロジー(老年学)。高齢者の心身の健康や経済、人間関係の加齢に伴う変化を20数年にわたる全国高齢者調査で追跡研究。近年は首都圏と地方の2都市で長寿社会のまちづくりの社会実験に取り組む。長寿社会におけるよりよい生活のあり方を追求。