2011.6.8更新
「世界中で愛される
リンドグレーンの絵本」展②
今回世田谷文学館では、2つの展示室と3つのコーナで「世界中
で愛されるリンドグレーンの絵本」展を開催していました。
第1部
「スウェーデンの暮らしが育んだ
リンドグレーンの世界」
「子どもの本の女王」と言われるリンドグレーンは、児童書の編集
の仕事を続けながら『長くつ下のピッピ』、『ロッタちゃん』、
『エーミル』、『屋根の上のカールソン』など個性豊かな登場人物が
活躍する物語を数多く生み出しました。さらに農村の生活を描い
た『やかまし村のこどもたち』など、スウェーデンの豊かな自然を
背景にした作品を多数残しています。
2階展示室では、スウェーデンを拠点にリンドグレーンの絵本を
世に送り出してきた挿絵画家たちの作品が紹介されていました。
それぞれの画家の作風や技法は異なりますが、リンドグレーン
同様、一人ひとりの子どもたちの個性が見事に描かれ、北欧の
自然の中でのびのびと心豊かに暮らす様が散りばめられていて、
とても惹きつけられます。
『長くつ下のピッピ』が登場したスウェーデンという国の風土や
文化的背景がしのばれて、興味深く拝見できました。
イロン・ヴィークランド画
『やかまし村の子どもの日』表紙(1961年)
イロン・ヴィークランド画
『やかまし村の子どもたち』(1954-1961年
イロン・ヴィークランド画
『小さいロッタちゃん』(1956年)
●イロン・ヴィークランドについて
(1930年~)
エストニアのタルトゥ生まれ。ロシア軍の侵攻により1944年、
難民としてスウェーデンに移住。
ストックホルムの美術大学を卒業後、1953年に出版社ラーベン
&ショーグレンに挿絵画家として応募し、リンドグレーンと出会う。
リンドグレーンはヴィークランドに童話を描く才能を見出し、
『やねの上のカールソン』シリーズや『ロッタちゃん』シリーズなど、
リンドグレーンの多くの作品に挿絵を付けることになった。
日本には1961年に『やかまし村』シリーズが紹介された。
第2部
「世界に飛び出すピッピ」
リンドグレーンは1941年、肺炎にかかった7歳の娘を喜ばせ
ようと、奇想天外な赤毛の女の子ピッピの物語を思いつきました。
そのお話は、娘が10歳になったとき、誕生日プレゼントとして
手作りの絵本にまとめられたそうです。
今や70以上の言語に訳され世界中の子どもたちに愛されて
いる「長くつ下のピッピ」の誕生でした。
1階奥の展示室では、それぞれの国を代表する画家たち
によって描かれた『長くつ下のピッピ』の絵本原画や
スウェーデン語版の表紙原画などが展示され、
ピッピが世界中の子どもたちをとりこにしていったことが
見てとれます。
よく知っているピッピの物語の特徴的なシーンが、
国によって画家によってその描写がさまざまで
その違いを眺めていくことができて面白い展示でした。
イングリッド・ヴァン・ニイマン画
『長くつ下のピッピ』
ニルソンを抱くピッピ(出版社用ポスター原画)
(1945年)
●イングリッド・ヴァン・ニイマンについて
(1916~1959年)デンマークのヴェイエン生まれ。
19歳でデンマーク王立美術アカデミーに進むが中退。
画家のアルネ・ニイマンと結婚後、スウェーデン・ストックホルムに
移住。44年に離婚。初期には油彩を中心に制作していたが、
子ども向けの挿絵画家として芸術性の高い作品を生み出して
いった。45年からリンドグレーンの『長くつ下のピッピ』シリーズに
携わったほか、『やかまし村』シリーズ、『カイサとおばあちゃん』
など52年までの間に数多くの挿絵を手がけた。
スウェーデンではニイマンによる挿絵が「ピッピ」のイメージとして
定着しており、近年は世界各地でニイマンの挿絵による「ピッピ」
の本が出版されている。
アドルフ・ボルン画
『ピッピ船にのる』ピッピ遭難する
(1993年)
●アドルフ・ボルンについて
(1930年~)チェコのチェスケー・ヴェレニツェ生まれ。
カレル大学教育学部に通い、プラハ美術工芸大学を卒業後、
プラハ美術アカデミーで学ぶ。チェコを代表する挿絵画家として
『長くつ下のピッピ』をはじめチェコ語で出版される世界の名作
絵本に挿絵を手がけている。幻想的な雰囲気を漂わせる挿絵と
ともに、社会風刺を込めた作品を発表しアニメの分野でも国際的
に評価が高い。
絵本や挿絵の分野で65年、76年にライプツィヒ国際ブック
コンクールでグランプリ、BIBI1979の金のりんご賞など、国内外の
様々な賞を受賞している。
日本では『ふしぎなでんわ』(87)、『ビーテクとなかまたち』(81)
などが出版されている。
ローレン・チャイルド画
『長くつ下のピッピ』
ピッピ、ごたごた荘にひっこす
(2007年)
●ローレン・チャイルドについて
(1967年~)イギリスのウィルトシャー生まれ。
2つのアートスクールに在籍後、家具造り、陶器のデザインなど
様々な仕事を経験。初めて手がけた絵本
『あたし クラリス・ビーン』で1999年スマーティーズ賞銀賞を
受賞。コンピュータを駆使し、コラージュを用いながら活字を大胆
にアレンジする個性的な絵本を発表している。
2007年には、リンドグレーン生誕100周年を記念する国際的
共同出版のために『長くつ下のピッピ ニューエディション』
(オックスフォード出版局、岩波書店)を手がけ、話題を集めた。
桜井 誠画
『長くつ下のピッピ』
表紙(1964年)
●桜井誠について
(1912~1983年)静岡県・静岡市生まれ。
同舟舎絵画研究所、川端絵画研究所で学ぶ。
大阪毎日新聞社学芸部に勤務しながら、いくつかのペンネームを
使って雑誌の挿絵を手がける。
第二次世界大戦後、児童書の挿絵画家として活躍しはじめ、
『小公子』、『オズの魔法つかい』、『アルプスの少女』、
『足ながおじさん』、『赤毛のアン』、『アンクル・トム物語』、
『家なき子』など、戦後、積極的に発刊された海外児童文学の
古典や名作の挿絵を手がけた。
『長くつ下のピッピ』シリーズ(63、64、65年、岩波書店)は
イングリッド・ヴァン・ニイマンによる原書を参照しながら
書き上げた。多くの日本人にとって、ピッピをはじめとする
リンドグレーンの作品と切り離せないイメージとなっている。
世界中の誰よりも多くのピッピの絵を描いた画家であり、
海外の評論家たちの間では、軽いタッチのリアルな線画で
超自然的な性質のピッピを、独特の現実感のある女の子として
描いたと評価が高い。
★資料コーナー
2007年にストックホルムで開催された「アストリッド・リンドグレーン
展」に展示された写真や、リンドグレーン記念館の紹介、絵本以外
のリンドグレーンの著作を初版本を含めて展示されていました。
★特設コーナー1
「きみがピッピだ!あそびっぴ!」
1階中央に位置する空間は、この期間、「やかまし村の子ども文学館」
と題して、子ども限定の「ピッピ遊び」のコーナーが用意されて
いたり、子どものためのワークショップの会場になったり、その
発表の展示があったりして子どものためのスペースとなっていました。
ふだんなら館内で子どもの声が響くと、ほかのお客様から苦情
が寄せられることもあるそうですが、この会期中だけはご了承
いただきたいというスタンスです。
とくに感動したのは「ピッピ遊び」でした。物語に出てくる7つの
エピソードをそれぞれ遊びにして、7つのコーナーで体験できる
というものです。
たとえば、私がピッピのお話の冒頭でとても驚いた、片方の足を道
の端のみぞに入れたり、後ろ向きになって歩いたりするシーンと、
床一面にクッキーのタネを拡げてハート型でくり抜くシーン。その
どちらも再現された遊びになって、ちゃんと用意されていました!
ほかにもピッピは「床に降りません」という遊びを考えて、隣に住む
トミイとアンニカと家の中で飛び回ったりするのですが、その遊び
もあって、子どもたちが楽しそうに挑んでいました。
ピッピの髪の毛のように、ピンと左右にとび跳ねた赤毛の三つ編
のウィッグが付いた麦わら帽子をかぶって、ピッピになりきれる
コーナーまであって、至れり尽くせり。
子どもの頃に戻って、私もいろいろな「ピッピ遊び」を体験したくて
たまりませんでした。
そういえば物語に出てくるピッピの遊びってモノや道具に頼らず、
「言葉」や「創造力」をフルに活用したとびきり楽しいものばかり。
今でも世界中の子どもたちに絶大な影響を与え、愛されている
理由の一つには、そんな自由な発想への憧れと共感があるのか
もしれませんね。
★特設コーナー2
「世田谷文学館と子どもたち」
世田谷文学館では、年間を通してさまざまなプログラムによる
子ども向け事業を行っています。
ユニークな展覧会解説シートや関連催事の「子ども文学館」、
子どものための読み聞かせ「お話の森」、ことばのワークショップ
「ことのは はくぶつかん」、学校に出張展示する「移動文学館」
など、文芸を主とした芸術の力で、子どもたちの創造性を育む
活動です。
このコーナーでは、そうしたワークショップについて紹介されて
いました。楽しみながら、子どもたちが文学や芸術に親しめる
素敵なプログラムばかり。子どもの頃にこんなワークショップが
近所にあったら、絶対に通っていただろうなと思いました。
とても楽しかった展覧会。最後、エントランスの一角にある
ミュージアムショップでは、リンドグレーンの絵本や関連グッズが
販売されていました。
嬉しさとなつかしさのあまり、思わずローレン・チャイルド画の
岩波書店のニューエディションと、おなじみ桜井誠画の文庫版の
2冊の『長くつ下のピッピ』を購入。
久しぶりに“友”をうちに連れて帰ることにしました。(ミヤタ)
なつかしい”友”がパワーアップして
戻ってきた!
岩波少年文庫(上)と
岩波書店のニューエディション(下)を購入!