2011.8.12更新 

  板橋区立美術館

「イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」に

行ってきました ③

    

    
 

かぐや展示.jpgのサムネール画像「かぐや姫」の展示が見られるボローニャ展は8/14までです!


 

前回に引き続きまして、今回の記事では
ボローニャ国際絵本原画展でボローニャSM出版賞を受賞
された、フィリップ・ジョルダーノさんのご紹介をいたします。

  

期待の新人 フィリップ・ジョルダーノ

  

—ボローニャ展の入選者には順位をつけないと伺いましたが、
ボローニャSM出版賞とはどのようなものでしょうか?

松岡:去年からできた新しい賞です。今までは絵本の多様性を
重視して賞を設けてこなかったのですが、スペインの
SM(サンタマリア)財団による「ボローニャSM出版賞」は
ボローニャ展のコンセプトに合致しているので新設されました。
ボローニャ展入選者の中から35歳以下の若いイラストレーターに
奨学金として3万ドルが与えられ、
さらにSM出版社から絵本を1冊出すことができます。
そしてその絵本を翌年のボローニャ展で発表して展覧会も
行います。経済的に恵まれない若手の作家に非常に大きな
機会を与える賞です。
そして去年、審査員が選んだのがフィリップ・ジョルダーノさん
でした。彼は今年で31歳になります。 

 


 かぐや3.jpg

  ふしぎな精霊に守られているかぐや姫。
どんな精霊なのか、すっごく気になりますね

  

 

 かぐやひめ表紙.jpg

上の原画は絵本の表紙でこのようになります。
 実はこの絵本、板橋美術館でボローニャ展がスタートして
すぐに売り切れとなってしまい
実際に入手できたのはしばらくたってからでした。
スペイン語のタイトルは
 『LA PRINCESA NOCHE RESPRANDECIENTE』

  

 

かぐやひめ裏表紙.jpgこちらは裏表紙。
ボローニャブックフェアのロゴが入っています

 

 ボローニャロゴ.jpgロゴ部分のアップです!

 

—彼のプロフィールをご紹介いただけますか?

松岡:彼は非常に面白い背景を持っています。
父親はスイス人で母親はフィリピン人、彼自身はイタリアで生まれ
たのでイタリア人といっていますね。
フィリップさんはイタリアの美術学校で学び、ボローニャ展には
2004年に初入選しています。それをきっかけにイタリアやイギリス
の出版社から絵本を出していましたが、去年もボローニャ展で
入選して、そしてSM出版賞に選ばれました。
絵本のテキストは出版社が選んだのですが、それが「かぐや姫」
でした。SM出版賞の国際性を強調したいという主催者側の意図
の表れです。
またSM財団前会長のコルテスさんがフィリップさんの絵を見た
ときにオリエンタルな感覚を感じたということから、日本の物語が
選ばれました。
フィリップさんの母親がフィリピン人であること、さらにフィリップさん
は小さい頃から日本のアニメを見て育ち、宮崎駿の大ファンである
こと、日本へ4回来訪したことがあったことなどは、SM財団の方
たちは知らなかったそうです。 

 

 

かぐや姫と、仮面をかぶった5人の王子様です
 

 

—フィリップさんは日本がお好きなのでしょうか?

松岡:そうでしょうね。絵本のお題を見たときには驚いたそうです。
彼はかぐや姫が月に帰った後の話にも興味を示しました。
富士山の煙は帝が不老不死の薬を山の頂上で燃やしたときに
出たもので、だから山の名前が不老不死のフジという名前に
なった、というエピソードです。
フィリップさんはかぐや姫を描くために日本に長期滞在したいと
考え、現在も東京で生活しています。
絵本を見ると、日本美術の様式をずいぶん取り入れていることが
分かります。

  

 かぐや5.jpg

二人目の王子がインドで仏陀の聖杯を探すシーンです。
トラの口から誰かの手が出ているのが、分かりますか……?

  

—展示を拝見しましたが、すごく細かいタッチですよね。

松岡:彼は線のとてもきれいな人です。コンピュータで描くことも
ありますが、今回は板に直接描いています。
かぐや姫は人間界と自然界の間にいる存在だと言っていました。
その言葉を表すように、絵の中にはもののけのような存在も
出てきています。
かぐや姫への彼独特の解釈が加えられ、表現された絵本に
なりました。

 

フィリップ氏の描く絵の世界観は、とっても複雑で不思議で、
見る人を引きつける魅力があります。
ボローニャ展の図録にもフィリップさんのインタビューが
掲載されているので、ぜひご一読ください!(サイトウ)

2011.8.12更新

  板橋区立美術館 

「イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」
 

に行ってきました ②

 

 DSC00365.JPGボローニャ・ブックフェアの入り口です

  

板橋区立美術館で、ボローニャ国際絵本原画展を担当されている
学芸員の松岡希代子さんにお話を伺いました。
今回の記事では、ボローニャ国際絵本原画展について
ご紹介いたします。

 

「ボローニャ国際絵本原画展」とは?

 

—ボローニャ国際絵本原画展の成り立ちや日本の絵本作家さん
との関わりについて教えていただけますか?

松岡:1967年から始まった「ボローニャ国際絵本原画展」
(以下ボローニャ展)は、児童書専門の見本市
「ボローニャ・ブックフェア※」の中で行われている展覧会で、
見本市を商業主義の場で終わらせないためのイベントです。
当時は今ほどイラストレーションの重要性を理解している人が
少なかったために、認知を高めることと、
編集者とイラストレーターとの出会いの場となることを
目標に創設されました。
ボローニャ・ブックフェアでは絵本を売買するのではなく、
絵本の版権などの売買が行われます。そのため来場者は
専門家しかいません。書店で絵本を購入するような、
いわゆるエンドユーザー向けのイベントではありません。
世界各地の出版社が多数出展し、編集者や教育関係者、
図書館司書らが見て回ります。
その中でも一番活発に動いているのは若手のイラストレーター
たちです。
世界中から集まってきては自分の作品を売り込んでいます。
ボローニャ展には18歳以上なら誰でも応募出来ます。
5点1組にした子どもの本のために描かれた原画なら、
出版されていてもされていなくてもかまいません。
子どもの本の世界の幅はとても広く、年齢や生活している場所
といった違いから生まれる多様性を大切にする意味で、
あえてグランプリといった順位をつけずに入選という枠だけが
作られています。80名から100名程度が入選となります。
1978年から日本でボローニャ展を行うようになりました。
兵庫県の西宮市大谷記念美術館のスタッフが
イタリア旅行をしていた時、偶然このイベントを知ったことが
きっかけになったそうです。
ボローニャ展側は見本市のイベントとして展覧会を行っていた
ので、美術館に誘致されるほどの美術的価値があるとは思って
いなかったようです。
 

●ボローニャ・ブックフェア……イタリア北部の古都ボローニャで
毎年開催される児童書専門の見本市。
今年は3月28日~3月31日に行われた。

  

—絵本に文化的価値を見出したのは日本、ということでしょうか。

松岡:そもそも絵本に関する展覧会や原画展を、美術館という
場所で当たり前に扱っている国を日本以外に知りません。
日本は世界で最も絵本に関心が高い国であると言っても
良いのではないでしょうか。
ボローニャ・ブックフェアはイタリアで行われているために、
イタリアに行けばレベルの高い絵本の展覧会があると
誤解されがちですが、私はイタリアで絵本美術館といったものは
知りません。 日本以外の国で注目すべき絵本美術館は
ドイツのトロースドルフ美術館とアメリカのエリック・カール美術館
でしょうか。エリック・カールさんは美術館をつくるために
日本の絵本美術館からアドバイザーを招いたり、調査のために
板橋区立美術館の様子を見にいらっしゃったりしていました。 

 

 IMG_2367.JPG

ブックフェアの様子です

 

—日本人作家の応募を増やすために、板橋区立美術館では
具体的にどのような活動をなさったのですか?

松岡:日本語の応募要項を作成して配布したり、
雑誌のインタビューを通して広報したり、
講演会や応募者のための説明会を行ったりしてきました。
それが功を成したのか、80年代の終わりから90年代にかけて
急速に応募者が増えました。入選した人にはボローニャ展で
売り込みをするための傾向と対策を積極的に伝えましたし、
それを作家たちが実践したところ、日本人作家が面白い作品を
持ってくると言って外国の出版社が興味を示すようになりました。
それから、日本人作家の絵本がまず外国から出版されて、
その作品が日本へ逆輸入されるという現象が起き始めたのです。
一番有名な例が三浦太郎さんですね。
2002年頃には既にイラストレーターとして成功していましたが、
絵本は1冊も出していませんでした。
板橋区立美術館のボローニャ展を見て応募し、入選したことが
絵本を出すきっかけになりました。

 

 くっついたアヒル全部.jpgのサムネール画像

当ブログのNO.33でもご紹介した三浦太郎さん!
ボローニャ展がきっかけで絵本を描くようになったんですね~

 

—板橋区立美術館とボローニャ展は絵本を出すための
窓口のような役割を担っているのでしょうか。

松岡:そうかもしれませんね。「三浦太郎さんがボローニャ展を
きっかけに絵本で成功した」と知られるようになると、それに刺激
された人が集まるようになりましたし。
現在、ボローニャ・ブックフェアに行く日本人作家は数えきれない
ほど増加しました。 初めての売り込みではうまくいかなかったので
もう一度挑戦する、といって出直す人もいますし、
出版社が決まった作家を集めてミーティングをしている様子も
見かけました。作家が仲間を作ったり、仕事を見つけたりできる
場になってきました。
ボローニャ展は参加型の展覧会です。絵本を出版するための
入り口です。
決して終点ではなく、入選してからどう進んでいくかを
自分で決めることになります。自分の作りたい作品を作って、
読者の手に取ってもらうのが作家の最終目標でしょうから。
そこに至るまでのひとつの機会がボローニャ展です。

  

絵本作家を目指す人にとって、登竜門であるボローニャ国際絵本
原画展。この記事をご覧になって興味が湧いた方は、板橋区立
美術館のホームページに記載されている要項をよく読んで、
ぜひぜひ応募してみてくださいね! 

 

板橋区立美術館 イタリア・ボローニャ国際絵本原画展情報
http://www.itabashiartmuseum.jp/art/bologna/index.html

 

板橋区立美術館 2012年ボローニャ展応募要項
http://www.itabashiartmuseum.jp/art/bologna/apply.html

 

Bologna Fiere(ボローニャ市見本市協会 英語とイタリア語のホームページです)
http://www.bolognachildrensbookfair.com/

 

EhonLab(三浦太郎さんのホームページです!)
http://www.taromiura.com/

 

 

★次回は、特別賞を受賞されたフィリップ・ジョルダーノさん
についてご紹介いたします!(サイトウ) 

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