板橋区立美術館
「イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」
に行ってきました④
前回に引き続きまして、最後の記事では
板橋区立美術館の成り立ちについてのご紹介です。
8/14までのボローニャ展!
地域と世界をつなぐ板橋区立美術館
—板橋美術館はどのような経緯で設立されたのでしょうか?
松岡:1979(昭和54)年の5月20日に、東京都23区内初の
区立美術館として誕生しました。現在の板橋区立美術館は
「世界の美術館と張り合える楽しい美術館を作りたい」という
気持ちから活動しています。
—なぜ「イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」を始めたのでしょうか?
松岡:板橋区立美術館では、開館当初から他の美術館で
扱われにくいテーマで企画を作って展覧会を行ってきました。
その一つが絵本です。
板橋区立美術が絵本の企画展を始めた当時、
東京の公立美術館で絵本を取り上げているところは
一館も無かったようです。
今でこそ当たり前に絵本展覧会を見ていますが、実は…!?
—絵本を扱っている美術館が無かったなんて驚きです。
松岡:絵本の原画を美術品として扱い、一般の大人が見ると
いうことは、実は意外に新しい習慣だと思います。
日本で初めてボローニャ展を開催したのは
兵庫県の西宮市大谷記念美術館でした。
当時、板橋区立美術館の学芸員が訪ねたときに紹介され、
1981年からボローニャ展を始めました。
絵本原画展自体が新鮮なものでしたし、珍しい東欧の絵本原画が
見られるということで注目を集めました。
東欧の絵本は面白い物が多いのですが、東西の対立の時代で
あったために当時は見る機会がありませんでしたから。
1989年に西宮市大谷記念美術館が3年ほど工事のため
休館することになったので、板橋区立美術館がボローニャ展の
開催準備の業務を引き取ることになりました。
その時から私が担当学芸員となり、ボローニャで直接交渉する
など積極的に関わるようになりました。
—板橋区立美術館では、展覧会を行う他にどんなことをされて
いますか?
松岡:様々なイベントを企画しています。
その一つに「夏のアトリエ」という、作家を育てることを目標とした
ワークショップがあります。毎年講師を世界各地から招き
皆で一週間かけてじっくり作品を制作します。
日本各地から参加応募はたくさんありますが、
参加できるのは20人前後になります。
参加者には出版歴のある人たちもたくさんいます。
ボローニャ展に入選した人もいます。
美術館での教育普及事業で、専門家育成とはっきり打ち出して
いるのは珍しいと思います。
初めの年はスロヴァキアのドゥシャン・カーライさん※が来てくれ
ました。作品に対する姿勢がすばらしい方です。
「夏のアトリエ」という名前もつけてくださり、
ワークショップのすすめ方も決めてくださいました。
今でもそれを踏襲しています。講師になるアーティストによって
多少の変化はありますが軸の部分は変わっていません。
※ドゥシャン・カーライ…東欧を代表する絵本作家。
2009年、板橋区立美術館で
「開館30周年記念 幻惑の東欧絵本
ドゥシャン・カーライの超絶絵本とブラティスラヴァの作家たち」
が行われている。
http://www.itabashiartmuseum.jp/art/schedule/e2009-05.html
真剣な語り声が聞こえてきそう……。
—特に積極的に行っていることはありますか?
松岡:絵本というものを通して様々なことが起きる出会いの場を
作るために、情報をどんどん出していこうと考えています。
ツイッターも始めました。絵本作家を目指しているのに子どもと
ふれあう機会の無いイラストレーターには、子ども向けのワーク
ショップの講師をしてもらいます。お互いに良い経験になります
から。
—来館者は区内の方が多いのでしょうか?
松岡:区内の小中学生全員に招待券を配布していますが、
小さいお子さんがいる人にもゆっくり展覧会を見ていただくために
一時保育を行う日も設けています。一時保育を美術館で一番最初
に行ったのは板橋区立美術館です。
未就学児、小学生、中高生、大人までそれぞれを対象にした
イベントを行ってきましたし、今年は翻訳講座も始めました。
絵本には様々な要素があるので、人によってつきあい方も変わり
ます。だからこそ絵本は一言で説明出来るものではないのです。
ボローニャ展という軸を大切にしつつ、出来ることを考えていくこと
で、板橋区を世界とつなぐ役割を担っていると思っています。
講師も受講生も世界中からやってくるので、身近なところから
国際的なつながりを実感できる機会だと思っています。
確かにボローニャ展へ行くと、
外国の方を見かけることが多いです。
美術作品への情熱って、いつの時代も熱いですね!
—板橋区立美術館の特徴はありますか?
松岡:板橋区立美術館は東京にあるということなどが関係して、
出版社の方やイラストレーターさんなどの絵本関係者が
非常に多く訪れます。
ボローニャ展の開催期間内限定でオープンする絵本のショップには、
国内で探してもここにしかない絵本がたくさんあります。
それを目当てに来館する方もいらっしゃいます。
ここにくれば何かがあると思っている人たちに対しては、
こちらもできるだけ求められているものをお渡ししたいと思っています。
とてもありがたいことに、小さいときに板橋区立美術館で遊んで
いた子どもが、母親になって遊びにくることもあります。
小さな建物ですが、美術館ということで、
地域に密着しているところに意味があるのでしょう。
実は来館者は区外の方も多いのです。
あるとき韓国の方が団体旅行で来館されたことがあります。
「イタリアは遠いから、日本にボローニャ展を見に来た」と
言っていました。見たい展示があれば外国まで行くことのできる
時代になったと思っています。
美術館はただ美術作品の展示を行う建物ではなく、
地域に密着しながら様々なイベントや学びの場を作っているから
こそ、すてきな交流が生まれる場になるのだろうな、
とお話を伺いながら思いました。
松岡さん、すてきなお話をありがとうございました!(サイトウ)