『かぐや姫』のフィリップ・ジョルダーノさんは
自然を愛し日本の神秘性に興味を抱く
繊細でやさしいイタリア人でした
「絵本のチカラ」プロジェクトでは、昨年のボローニャ国際絵本原画展で
特別展示『かぐや姫』を描いたフィリップ・ジョルダーノさんにお会いして、
彼の絵本に対する思いや、『かぐや姫』の絵本制作について
取材させていただきました。
この取材にあたっては、イタリア書房社長の伊藤道一さんに
多大なご尽力とご配慮を賜り、ようやく実現できました
またその前に、イタリア文化会館図書室の
豊田雅子さんに出会うことができ
豊田さんからイタリア書房さんをご紹介いただけたという
いきさつがありました。
そんなご縁から、先だってイタリア文化会館で行われた
「絵本のなかのイタリア展」の取材もできたわけです。
おふたりには深く感謝申し上げます。
フィリップさんのインタビューは昨年末、
東京・神保町にあるイタリア書房で行われました。
写真右手前の方(背中)が、イタリア書房社長の伊藤道一さんです。
フィリップさんと伊藤さんのイタリア語の会話を
通訳のガブリエレさんが日本語で私たちに同時通訳してくれるという
面白い場面が何度もありました。
(左の人)フィリップ・ジョルダーノ Philip Giordano(別名ピリポPilipo)さん。
フィリップさんについてはバックナンバー「2011.8.12更新 板橋区立美術館
「イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」に行ってきました ③」をご覧ください。
(右の人)ガブリエレ・レバリアーティ Gabriele Rebagliatiさん。
フィリップさんの幼なじみで、2004年トリノ大学卒業後、
しばらく食品会社フェレロで働く。フェレロでは世界の子ども向けの
お菓子のマーケティング、新商品の開発やキャラクター考案などに携わる。
その頃小説家としての活動も始め、
2010年には『10 minuiti』という短編小説集も出版。
現在中央大学研究科に所属、ケータイコミュニケーションと書籍の電子化を研究。
また、翻訳者、およびイタリア語教師(イタリア文化会館)としても活動。
今後ふたりで日本とイタリアの架け橋となるような事業に携わっていきたい
という夢を持っているそうです。その第一弾としてふたりの故郷に桜の木を植えるプロジェクトに着手、今後イタリアの各都市に広めていく予定だそうです。
メルマガ会員向け企画第一弾のサイン本プレゼント用に
サインを書いていただきました。
(この企画はすでに当選者発表、発送済みです)
サインの横にはオリジナルイラストも描いてくださいました!
—絵本を描こうと思われたきっかけは?
フィリップ:子どもの頃から絵を描くのが好きでした。
とくに好んで描いていたのが植物や動物です。
自然の中で本物を見て、それをそのまま忠実に、リアルに描くのが
とても面白いと思ってました。
だからその頃、夢中になって読んでいたのは
植物図鑑や動物図鑑でした。
大きくなって絵の学校に通い始めた当初は、
図鑑に載っているような絵を描こうと思っていました。
でも学校で学ぶうちに、イラストにはいろいろな種類があることを知り
次第に子ども向けの絵本や物語のための絵を描こうと思うように変わっていったのです。
—フィリップさんご自身が好きだった絵本や影響を受けた絵本はありますか?
フィリップ:母がフィリピンから大切に持ってきた絵本がありました。
たぶん1940~50年代のアメリカやヨーロッパの絵本だったと思いますが
母が子どものときに読んでいたもので、タイトルは覚えていませんが
クラシックなリトグラフィーでとてもきれいな絵本でした。
それから、ブルーノ・ムナーリの絵本にも影響を受けました。
当日、フィリップさんが影響を受けた絵本やポスターなどを
持参してくださいました。
横尾忠則さんのポスターもありました。
—『かぐやひめ』についてうかがいます。
まず、登場するキヤラクターについてどういう構想があったのですか?
フィリップ:オリジナルの物語に変更を加えたりはしていませんが、
自分なりの独自の解釈をしました。
たとえば物語には5人の王子が登場するのですが、
5人が5人とも、美しいかぐや姫を手に入れたいがために
彼女をだまそうとします。そういう人物像を表すために
王子たちには仮面をかぶせたわけです。
竹取の翁に竹やぶで見つけられ大切に育てられた女の子は
すばらしく美しいかぐや姫になります。
やがて5人の王子が彼女に求婚するのですが、
かぐや姫はひとりひとりに難しい試練を与えます。
一人目の王子には「ある島にある
不老不死の果実のなる金と銀の枝を取ること」。
ところが王子は島に行かず職人に金の枝を作らせ、
かぐや姫をだますのだがばれてしまい失敗に終わります。
二人目の王子には「インドで仏陀の聖杯を探すこと」。
しかしこの王子もインドに行かず京都で似たような杯を見つけ、
かぐや姫をだますのだがばれてしまい失敗に終わります。
三人目の王子には「中国で火ネズミのマントを探すこと」。
この王子も人に頼んで探してきてもらうのですが、
それは偽者のマントで、かぐや姫をだますことはできず失敗に終わります。
四人目の王子には「龍の首にかかっている
真珠の首飾りを取ってくること」。
この王子は実際に龍を探しに行くのですが
病気になり路頭に迷い、戻って来れず失敗に終わります。
五人目の王子には「ツバメによって守られている貝を探すこと」。
この王子も貝を見つけることができず失敗に終わります。
—登場するキャラクターを描く際にとくに留意したことはありますか?
フィリップ:ストーリーにそってふさわしいものを登場させています。
カラスや蝶、龍などアジア的なもの、日本的な生物がたくさん登場していますが、
それはもともと自分が好きな自然のエレメントとして入れたかったからです。
『かぐや姫』には日本およびアジア的なエレメントが数多く登場します。
—世界観のつくり方についてうかがいます。全体を通してどのようなものに仕上げたかったのですか?
フィリップ:未知のもの同士が出会い、お互いに影響し、成長し、
最後は幸福になれるということを表したかったのです。
たとえば、いろいろな人との出会いによってかぐや姫が成長していく姿。
あるいは「不死の火から富士山になる」というお話があることを聞いて、
富士山から香りのメッセージがあたり一面広がる描写など工夫しました。
—『かぐや姫』は木目の効果が非常に効果的に描かれている作品
だと思いますが、それは意図したことですか?
フィリップ:ボローニャで特別賞をもらった作品と
同じ質感にしたかったからです。
フィリップさんの受賞作品もイタリア書房にありました。
『L’ISOLA DEL PICCOLO MOSTRO NERO-NERO』。
邦訳版『まっくろくろのおばけちゃんのぼうけん』が
岩崎書店から出版されています。
—フィリップさんの絵は緻密な文様が独特ですが、
文様の着想はどこから得ているのでしょうか?
フィリップ:日本の着物柄から色の組み合わせをヒントにしたりしています。
また、ヨーロッパ的な文様から選んだ組み合わせもあります。
両方があいまって無意識に好きな組み合わせにしたものもあります。
—ところでフィリップさんは親日家でいらっしゃるとうかがいましたが、
日本のどこが好きですか?
フィリップ:私が日本に興味を抱いたきっかけとなったのは、
ジブリのアニメ「風の谷のナウシカ」です。
主人公の女の子の自然との結びつきの強さに感動したのです。
イタリアでは80年代から日本のアニメがたくさん放映されるようになりました。
そういうこともあり、次第に日本に憧れをもつようになったのです。
—実際に日本に長期滞在されていて、さらに好きになった点はありますか?
フィリップ:とくに素晴らしいのは日本食です。
日本の健康的な食事は素晴らしい。
イタリア料理も健康的だと言われてますが、パスタは太るんですね。
私はイタリアに帰ると必ず太ってしまいます。
あと、日本にはイタリアにない神秘的な雰囲気、精神的な考え方があります。
資本主義、商業主義に侵されつつあるけれども
まだまだ残っている神秘性や精神性は素晴らしいと思います。
日常的なところでは、細かいところまで日本人はケアしますよね。
小さいところまで大事にします。
たとえば開花する桜を国じゅうが愛でること、
これはイタリアでは考えられません。
イタリアにも詩人はいますが、一般の人は花が咲いたからといって
みんなで喜ぶことはないですから。
—今後の絵本作りに関して考えていることを教えていただけますか?
フィリップ:今、SILKの伝統について、そして蚕の伝統について
研究したいと思っています。
かつてイタリアと日本の間にはシルクロードを通じて交流がありました。
そのことを作品を通して描きたいと思っているのです。
—最後に、読者の方へのメッセージをお願いします。
フィリップ:私の作品を読んでくれた人が
それぞれ自由なイマジネーションや意味を持ってもらえたら嬉しいです。
フィリップさん、どうもありがとうございました!(ミヤタ)
フィリップさんのホームページ
http://www.philip-giordano-pilipo.com