うらわ美術館
ブラティスラヴァ世界絵本原画展
-広がる絵本のかたち
「ブラティスラヴァ世界絵本原画展—広がる絵本のかたち」
期間/9月2日(日)まで
開館時間/10時~17時、土曜日・日曜日のみ~20時
(入場は閉館30分前まで)
観覧料/一般 600円 大高生 400円 中小生 無料
休館日/月曜日
会場/うらわ美術館 ギャラリーABC
住所/さいたま市浦和区仲町2-5-1 浦和センチュリーシティ3F
TEL/048-827-3215
http://www.uam.urawa.saitama.jp/
2年ごとに開催される世界最大規模の絵本原画展、
第23回を迎えたブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB2011)。
うらわ美術館から国内巡回展が始まりましたので、
昨年に引き続き取材してきました。
前回の第22回展のブログ記事および
このコンペティションの成り立ちについては
こちらをご覧ください。
第23回展は世界44ヶ国から356名の絵本作家の
原画作品2318点が出品されました。
グランプリの栄誉は、韓国のチョ・ウンヨンさん。
彼女の作品『はしれ、トト!』は上のポスターや
図録の表紙に採用されています。
また、先日当ブログでご紹介した
「2012イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」の図録の表紙にも
チョ・ウンヨンさんの書き下ろしの絵が使われています。
BIB2011の図録の表紙です。
うらわ美術館では
第1部「BIB2011受賞作品」、第2部「BIB2011日本作家の作品」、
第3部「スロヴァキアのイラストレーションの現在」、
第4部「絵本のかたち-日本のしかけ絵本」
という4部構成になっていました
まず第1部では受賞者11名の作品が展示されています。
各賞から1作品ずつご紹介しましょう。
★グランプリ(1名)
チョ・ウンヨン/韓国「はしれ、トト!」(2010年)
ⓒEun young Cho
幼い子どもの目でとらえた競馬場の様子。
走る馬がダイナミックに描かれていきます。
チョ・ウンヨン/韓国「はしれ、トト!」(2010年)
ⓒEun young Cho
絵本は、場面ごとに技法の異なる原画が
大胆なトリミングで編集されていて
とても興味深い作品です。
「はしれ、トト!」の絵本。
初出のフランス版(写真右)と逆輸入された韓国版(左)も
手にとって見ることができます。
★金のりんご賞(5名)
ジャニク・コアト/フランス「サプライズ」(2010年)
ⓒJanik Coat
文字のない(=サイレント・ノベル)作品です。
飼い主の女性と一匹の飼い猫の暮らし、
その関係の変化をグラフィカルに表現しています。
ジャニク・コアトの絵本2冊。
「サプライズ」(写真左)と「わたしのカバ」。
どちらもグラフィカルな表現が傑出した作品です。
★金牌賞(5名)
シモーネ・レア/イタリア「イソップ物語」(2011年)
ⓒSimone Rea
イソップ物語から20篇を紹介する絵本です。
各物語は見開きに一つの場面と簡潔な文章で
構成されています。
大胆な構図と深くて鮮やかな色調が
とても印象に残る作品です。
「イソップ物語」の絵本の展示。
さらに1部では、子ども審査員賞も展示されています。
★子ども審査員賞(1名)
いまいあやの/日本「くつやのねこ」(2008年)
ⓒいまいあやの
当ブログで昨年7月1日付「きょうの絵本」としてご紹介した
いまいあやのさんの「くつやのねこ」。
その際、いまいあやのさんにFAX取材させていただきました。
(「くつやのねこ」の記事はこちらです。)
その作品が今回子ども審査員賞を受賞!
とても嬉しく思いました。
文字通り”子どもたちによって選ばれた作品”ということですから。
子ども審査員の代表カタリーナ・マルシツォーヴァーさんは
「シンプルさの中に絵の神秘性と美しさがある。
私たちは、この作品の色彩と画面の作り方が良いと思った」
と発表したそうです。
「くつやのねこ」の絵本の展示。
さて、BIB2011について、うらわ美術館の学芸員・山田志麻子さんに
全体的な特徴や日本の作品の特筆すべき点などについて
解説していただきましたのでご紹介します。
—今回の全体的な特徴についておうかがいしたいのですが?
山田: 現代的でグラフィカルな作品が多かったということでは
ないでしょうか。
よりポップな、という表現がふさわしいかもしれません。
前回までは絵画的で重厚な作品が多かったのですが
今回はとくに「若手化」と「デジタル化」が
顕著だったと感じています。
—たしかに、グランプリ作品「はしれ、トト!」は
iPadでもかなり楽しませてもらいました。
紙の絵本とは違った面白さがあって、
そういったところが今回は新しいところですね。
「はしれ、トト!」は絵本アプリにもなっています。
うらわ美術館では、原画、絵本、絵本アプリと
それぞれ比較しながら観ることができて
実に面白い展示になっていました。
躍動感のあるダイナミックな絵が
絵本アプリによってさらに迫力と楽しさが増します。
山田:これまではどちらかというとブラティスラヴァは
ベテランの絵本作家のコンペティションで
ボローニャは若手の登竜門と言われていましたが、
今回の受賞者は若いんですね。
過去5回の受賞者の平均をとっても、
グランプリ受賞者の平均をとっても、
今回のブラティスラヴァはとりわけ若く、イラストレーターとして
活躍しだしたばかりの人が多いのです。
—若い才能をピックアップするような方向に
審査の舵をとられだしたのでしょうか?
山田:現地の事務局の組織が変わって、
何か新しいものを生み出そうとする意識が
いろいろなところで現れているのかもしれません。
デジタル化にしても、本来は原画展ですので
1点ものの絵が審査の対象でしたが
今回はコンピュータグラフィックスのデジタル出力や
デジタルドローイングなど、コンピュータを使った作品が多く
受賞作品の約半分がそうでした。
前回まではオリジナルでないものに対する躊躇といったものが
あったそうですが、今回は受賞作品をみても
それが払拭されたといえると思います。
—いよいよコンピュータによる原画制作があたりまえの
時代に入ったともいえますね?
山田:そうですね。原画を描く時点でコンピュータを使うことが
多くなったことでも、今後原画展をどう考えるかという
大きな岐路に立ったともいえるかもしれません。
さて、第2部では国内選考を通った12名の日本人作家の
原画と絵本が展示されていました。
あべ弘士「もりのねこ」2010年
ⓒあべ弘士
荒井良二「うちゅうたまご」(2009年)
ⓒ荒井良二
飯野和好「うらしまたろう」(2010年)
ⓒ飯野和好
大畑いくの「そらのおっぱい」(2007年)
ⓒ大畑いくの
片山健「むかしむかし」(2010年)
ⓒ片山健
軽部武宏「のっぺらぼう」(2010年)
ⓒ軽部武宏
こみねゆら「にんぎょうげきだん」(2009-10年)
ⓒこみねゆら
酒井駒子「BとIとRとD」(2009年)
ⓒ酒井駒子
田中清代「気のいい火山弾」(2010年)
ⓒ田中清代
三浦太郎「ちいさなおうさま」(2010年)
ⓒ三浦太郎
降矢なな「いそっぷのおはなし」(2009年)
ⓒ降矢なな
森洋子「まよなかのゆきだるま」(2009年)
ⓒ森洋子
さらに特別展示として第3部では
2013年に外交樹立20周年を記念して
地元スロヴァキア共和国のイラストレーションの
現在を若手からベテランまで幅広く紹介されています。
スロヴァキアでは絵本芸術が手厚く保護されていて
国家事業として子どもの文化を守っているそうです。
作品は全体的に重厚で細密で丁寧な印象があり、
どれも非常に見ごたえのある出来栄えです。
それでも若手はデジタルを使用したり
アメリカナイズされた軽やかな作風を好んだりと
バリエーションが豊かになってきているのも見て取れて
面白い展示になっています。
ダーヴィト・ウルスィーニ/スロヴァキア
「千夜一夜物語5」(2010年)
ⓒDávid Ursíny
やわらかな水彩による描写に質感の変化を与えるため
和紙のような紙を染めたものや押し葉など、部分的に
コラージュが施されています。
第4部は日本のしかけ絵本の展示です。
主に明治時代から現代にいたるまで
さまざまな仕掛けを凝らした絵本が
「かわる」「とびだす」「うごく」の
3つのキーワードで構成されています。
その中からいくつかをご紹介しましょう。
「早替 胸機関(はやがわり むねのからくり)」
1809(文化6)年
歌川豊国/画 式亭三馬/作
兵庫県立歴史博物館蔵
人の胸の内が滑稽に描き出されている。
扉をめくると下の絵が現れる仕掛け。
明治期にさかんに取り入れられたそうです。
「幼年フレンド 第2巻第7号」
1917(大正6)年
東京フレンド社/刊
札幌市中央図書館蔵
素材の違うやわらかい色紙が
日よけの部分に使われています。
「なないろえほん」
2002(平成14)年
きのとりこ/作 きのとりこ/刊
うらわ美術館蔵
さまざまなパターンや絵のかたちが、黒と白、
さらに7色の紙に型抜きされ、
バインダー用の2つの穴がそれぞれ上下左右の端に
開けられています。
これを使ってページの順番や天地を入れ替え、
自由に物語をつくって楽しむことができます。
2003年ボローニャ国際絵本原画展入選作。
「なないろえほん」の表紙です。
「折ってひらいて」
2003(平成15)年
駒形克己/作 ONE STROKE/刊
うらわ美術館蔵
フランス国立近代美術館(ポンピドゥーセンター)と
共同制作した作品。
各ページには切り込み穴、折り目が付けられ、
折ったり開いたりすることで、その形や空間を
変えながら楽しむことができます。
また、うらわ美術館では会期中、
創作コーナー「ひらいて ドキドキ つくって ワクワク」
を行っています。(自由参加、無料)
絵を描いても、立体作品を作ってかまわない、
とてもクリエイティブな楽しい部屋です。
作った作品は部屋に展示することもできます。
今回の特別展示「日本のしかけ絵本」にちなんで
色紙を使ったこんなアートワークもできます!
すてきなオリジナルアートの出来上がり!
ちびっこもママもみんな夢中!
ものづくりって楽しいよね♪
うらわ美術館でのブラティスラヴァ世界絵本原画は9月2日(日)まで。
夏休み後半、素晴らしい原画や絵本の数々にふれて
ついでにアート作品づくりに挑戦してみてはいかがでしょう!
(ミヤタ)
★国内巡回展 今後の開催予定は次のとおりです。
千葉市美術館 2012年9月8日(土)~10月21日(日)
高浜市やきものの里かわら美術館 2012年11月3日(土)~12月24日(月)
足利市立美術館 2013年5月18日(土)~6月30日(日)