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2013.5.30
さいとうれいこさん
『おしゃれっぽきつねのミサミック』
制作裏話 ④
さいとうれいこさんと編集の安藤さんによる裏話ご紹介も、本日で最終回です。
お二人にとって、絵本はどんな存在なのでしょうか……?
第4回「私にとっての絵本」
―絵本、そして絵本のチカラとは何だと思いますか?
さいとうれいこ(以下S):私にとっては、子どものときの私を救うものですね。
同時にいまの私を救うものかもしれません。
子どものころ、ものをなくすとこの世の終わりが来たみたいに落ち込みました。
でも、大人になってからバッグにつけていたチャームを落としたとき、
あまり落ち込まなくなっていたことに気づいて。
それ自体がすごくショックでした。子どものときはあんなに落ち込んだのに。
絵本作家になりたいと思ったときから、
子どものころの気持ちを忘れないようにしようとしている部分もあります。
―作品でもあり、自分の記録でもあるということですか?
S:そうだと思います。
一人よがりにならないよう気をつけているのはそのせいもあるんです。
読者がすごく大事だっていうのはわかっているのに、
つい全面的に自分が出てしまうので。
たくさんの人に読んでもらいたいなら、
たくさんの人にわかってもらえる要素も入れなくちゃと思っています。
安藤康史(以下A):私にとっては、絵本はまず仕事のひとつです。
子どものときから本は好きでしたが、
出版の仕事に就いて児童書や絵本を担当しているのはたまたまだったんです。
―安藤さんは、『おしゃれっぽきつねのミサミック』を担当されて
どんなことを思いましたか。
A:いままでに作ったあらゆる本の中でいちばんの自信作が、この『ミサミック』です。
最初に私のところに持って来ていただけてよかったと思っています。
後輩が購入して1歳くらいのお子さんに毎日読んでいるらしいですが、
ムウムさんを「モーモさん」と呼びつつ、
すごく気に入ってくれていると聞いています。
その子にとって最初に読んだ絵本になったんだと思うと、
いい仕事させてもらったなと実感しています。
大きくなって絵本を読んだことは忘れてしまっても、
何かのかたちでその子の中にずっと残りますから。
S:知り合いの保育士が、
「幼稚園の子にはこの絵本はちょっと難しいね」
と言っていたので、それを聞いてほっとしました。
今井教授は
「絵本を何歳向けと決めつけるのはおかしい。
その子によって成長の度合いは違うのに、母親が選びやすいようにするためだけに
対象を設定するのは、可能性を奪うことになる」
と思っているそうです。
○○歳だからこれを与えましょう、というよりも、
年齢を気にしすぎずに絵本の楽しみ方を
読者の一人ひとりにゆだねていこうと考えるようになりました。
A:対象年齢を表示することには、読者が選びやすくなるという利点もあるので、
私としては、つけても構わないと思っています。
ただしそれは漢字やかなの表記をどうするかの話であって、
それさえ守っていれば、多少難しい言い回しもアリだと思っています。
一見、矛盾するように思われるかもしれませんが。
たとえば、『ミサミック』には「ひがないちにち」という言い回しが出てきます。
S:好きな言い回しなので、使いたかったんです。
A:大人が読んだって、1冊の絵本を100%理解することはないでしょう。
「『ひがないちにち』って何?」と子どもが親に聞いたり、
大人になってから初めてわかることがあったりと、
子ども一人ひとりの成長に合わせて、理解が深まればいいと考えています。
初めから子どもの力を、ことばは悪いですが「ナメてかかる」べきではないと、
これは私がこの仕事に就いてから、ずっと肝に銘じていることですね。
絵本の作り方は、人それぞれ。
絵本に対する思いも、人それぞれ。
私にとっての絵本とは何だろう?と、じっくり考えてみたくなりました。
さいとうれいこさん、安藤康史さん、
とっても素敵なお話をありがとうございました!
また後日、絵本の表紙絵のヒミツなどをメルマガにてご紹介いたします。
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さいとうれいこさんの次回作も、とっても楽しみにしています〜!
ありがとうございました〜!!
2013.5.29
さいとうれいこさん
『おしゃれっぽきつねのミサミック』
制作裏話 ③
まだまだ続きます!さいとうれいこさんと編集の安藤さんによる裏話をご紹介♪
絵本制作時のあんなテクニックやこんなテクニック、ご存じでしたか?
第3回「色へのこだわり」
―さいとうさんは色へのこだわりが強いですよね。
さいとうれいこ(以下S):中間色が大好きです。
けれど、子どもの目には原色の方がすごく映えて見えるんです。
なので全部は中間色にせずに、明るい色を1つ2つ画面に入れることを決めて、
描き進めていきました。
中間色をたくさん使いたくなっても、絵本には反映させたくないので、
そこは我慢して、他のイラストを描いて発散します。
そのため、イラストと絵本の絵とでは雰囲気が異なります。
一人よがりにならないための対策のひとつです。
安藤康史(以下A):発散しているという話は初めて聞きましたが、
それでこのような画面が作れたのかと納得しています。
色については、全面的にSさんにおまかせしています。
私も多少は絵を描くので、
ダミー絵本を見てSさんの色彩設計にすごくひかれたんです。
色数が多くても、ごちゃごちゃせず、全体として調和が取れていると感じています。
ダミー絵本を一部拡大して撮影しました。
さまざまな青色が並んでいます。
S:フランスの色鉛筆を何百色と持っていて、
ダミー絵本に使った色の名前を描き込んでいきます。
A:私は色鉛筆をちゃんとグラデーションに並べてしまっておかないと
気が済まないたちなので、Sさんのダミーを見て、仲間だと感じましたね。
S:同系色でまとめてあるんです。そこに子どもに受ける「差し色」を入れます。
雰囲気の違う色を入れたいと思ったときは、その面積を小さくします。
同系色で調和が取れている世界を崩さないように。
グラデーションは常に意識してはいますが、
この絵本でサブキャラクターたちの色がグラデーションになっているのは
たまたまです。
最初は動物のつもりで描いていたので茶系の色を使うことが多かったのですが、
性格などのキャラクターを設定した段階で、
動物を意識した色を使わなくてもいいと思うようになり、自由に色を決められました。
好きな色を選んだら、お気に入りのグラデーションができてしまったんです。
―森の中で絵を描く場面は、ダミー絵本の段階ではありませんでしたね。
A:ダミーから大きく変わった、印象的な場面です。
S:変更する前は、クライマックスの直前なのに画面がさみしいなと感じていました。
すると
「森の中で絵を描いてもいいんじゃないか」
とAさんにご指摘いただいて。
この青はイラストを描くときには使っていましたが、
子どもの絵本には使えないと思っていたんです。
でも、森と言われた瞬間に、好きな色を使ってもいいよね?と思ったんです。
緑を使う気はありませんでした。もともと緑を使うのが得意ではないんです。
絶対に本物の植物が持つ緑には負けてしまうので。
何と言われるか心配でしたが。
A:暗い森の場面にするのがいいとは思いましたが、
こんなに全体的に青い絵に仕上がるとは思っていませんでした。
でも同時に、これでよかったと思いました。
S:他の画面でも明るい色ばかり使っているので、
この場面でぐっとトーンを落とせるなとうれしかったんです。
A:私自身は、暗い画面が少ないということは気にしていませんでした。
それよりも、ムウムさんが夜の青いドレスを着たミサミックを描くなら、
ダミー絵本にあった明るい草原ではなく、
暗い森の場面にした方がいいのではと考えたことが、理由としては大きいです。
S:青は寒色なので昔は好きじゃなかったんです。
だから一時期、どの青なら自分は好きになれるのか、と
青ばかり研究していた時期がありました。
その色をそのまま使ったので、楽でもありました。
A:絵本のチカラブログの紹介でも、この場面が取り上げられていたので、
よかったなと思っています。
S:この場面を気に入っていただける方が意外と多かったんです。
びっくりしました。
私としては絵本にはふさわしくないと思い込んでいたので。
ただでさえ自分の絵は、中間色が多かったり、
描き込みすぎたりということを気にしていたんです。
でも、読者の方に「すっごくよかった」と感想をいただき、今井教授にもほめられて、
自分の感覚を一人よがりだと思い込んでいただけだったと気づきました。
どこかでほかの人の感覚をパターン化して思い込んでいたのかなとも。
―どんな画材を使っていますか?
S:主にアクリルガッシュと色鉛筆です。
コラージュもして、色をぼかしのばす部分ではパステルを使っています。
アクリルガッシュは油絵のように濃いままで使ったり、
透明水彩で使うように水でのばして使えたりするので、すごく描きやすい画材です。
細かい線が好きなので、最後は色鉛筆で仕上げます。
アクリルは重ねすぎると色鉛筆がのらないので、重ねる部分を決めておきます。
あとは、ミサミックのスカートの下地には小豆色が塗ってあるんです。
深みを出したくて。
その上に、クリムソン、カーマイン、ピュアレッド、スカーレットと重ねています。
ぱっと見は柔らかな赤色になりますが、
人は無意識に色の深みを感じ取ってくれるかなと。
ミサミックも同じように小豆色で塗って、
さらにベージュ、アイボリー、チャイニーズホワイト、チタニウムホワイトを
1色1色重ねて作ってるんです。
―スカートの赤はすごく印象的です。
S:今井教授が
「白黒コピーすると凹凸が出ているか確かめられるんだよ」
って私の原画をコピーしたら、スカートが真っ黒になったんです。
「赤は普通こんなに黒く出ないぞ」
とおっしゃるので、
「実は小豆色が隠れているんです」
と言うと
「やっぱり」
と納得していただけました。
―白黒コピーで凹凸を見る、とは?
S:グレースケールで見ることによって、実際の色で見るよりも、
階調がわかりやすくなるんです。
それによって、画面にメリハリがついているか確かめられます。
「この画面がなんかぺたんとしちゃって」
と相談したときに、
「コピーしたらわかるよ」
と今井教授に教えていただきました。
そうして見たところ、同じ明度のグレーばっかりだったんです。
色をつけてしまうとメリハリがわかりにくくなりますが、
たとえ色相が異なっていても、明度と彩度が同じになってしまっていたから、
ぺたりとした印象だったんだな、と。
それからは明度を調節できるようになりました。
④に続きます。お楽しみに!