2013.12.17

「アートが絵本と出会うとき

―美術のパイオニアたちの試み」

インタビュー 前編

 

 

前衛美術と子どもの絵本は、実は深いつながりがあるということをご存じですか?
うらわ美術館「アートが絵本と出会うとき」展では、
前衛美術作家の制作した実験精神あふれる絵本を見ることが出来ます。

担当学芸員の山田さんに
展覧会にまつわるお話をお伺いしました!
前編と後編、2回に分けてご紹介いたします。 

 

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― この展覧会を開催したきっかけを教えてください。

山田:まずは、うらわ美術館では本に関する作品の収集をしているので、それに絡めた企画の1つとして考えました。
あとは、常々感じていることがきっかけとなりました。それは絵本と美術、特に前衛美術は離れているように見えることです。
前衛美術や抽象画は難しいと拒絶されがちですが、対して美術に携わっている人たちからは、絵本は子どもの世界だ、という引いた態度があるように感じることが多く、それがとても残念でした。
そこで、絵本と美術はもともと接点がありますから、今回は20世紀という時代でくぎり、
国内外の前衛的な活動を行った美術家をとりあげ、両者をつなげる展覧会として企画しました。
ですので、出品作家はいわゆる絵本作家ではありません。
当時の前衛美術で活躍し、かつ絵本を作っていた人で、かつ真剣に取り組まれた絵本を意識的にとりあげようと考えました。
見る人によっては、ごく限られた出品作家だと感じるかも知れません。


 

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エル・リシツキー『二つの正方形について:六つの構成によるシュプレマティズムのお話』

 
それと、子どもが示す絵本への反応は、大人の想像していたものと違うことがすごくおもしろくて、この違いは何だろうと興味を持ったことにも由来しています。
例えば元永さんの絵本で、『もこ もこもこ』を図書館のお話会で読むと、あちこちにいた子どもたちが、ぴゅっと引き寄せられてきます。
それに、生後数ヶ月の赤ちゃんに元永さんの絵本を毎日読んでいると、ある場面で必ず同じ反応をするんです。
元永さんの絵本は今でこそ知られていますが、発表当時は全く前例のない絵本で、ほとんど売れなかったと聞いています。
でも子どもの反応を見て、だんだんと大人が「あ、こういうものでも可能性が広がっていくんだな」と気づいたんですね。
元永さんが描くのは抽象画なので、彼の絵画は分からないと言う大人が多いと思います。
「抽象画が分からない、私は美術が分からない」って言うんですよね。
だけど子どもは絶対そんなことは言わないし、
おもしろいものはおもしろいと食いつきます。 大人は既成概念で見ようとしますが、子どもにはそういうものがないので。


― 確かに、前衛美術が分からなくて苦手という人はなかなか減りません。

山田前衛作家の絵本でなら、苦手意識が無くなるのではと期待しています。
絵本の構造上、言葉がある分、前衛美術をただ見るよりとっつきやすいと思うのです。
大人の「分からない」は、言語化出来ないという意味でもあると思いますが、子どもは言語と表現が未分化なので、言葉が分からなくても魅力的な物にはひきよせられ、つまらないと思えばすぐ飽きてしまいます。
展示した絵本こそ素晴らしいと言いたいのではなく、絵本と美術に接点があって、そこから広がっていったものがあるということを、少しでも感じていただければと考えています。

 

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エル・リシツキー『声のために』

 

ー 今回の展示は大人向けなのでしょうか?

山田子ども向け展覧会とは言いづらいです。解説も堅めなので。
ただ、手に取って見られる絵本がたくさんありますので、年齢に関係なく楽しんでいただけると思います。

 

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『さかだちぎつね』(福音館書店)、『そらとぶおうち』(福音館書店)、
『これは本である』(実験印刷工房ぱたぱた)、『くいしんぼうのあおむしくん』(福音館書店) 

 

ー 柏原えつとむさんの『これは本である』を読んでみましたが、
読めば読むほどわけが分からず、楽しかったです。

山田『これは本である』は、今まで当館の展示では触れることは出来ませんでした。今回は作家さんにご協力いただいた本を手に取って読むことの出来る、貴重な機会となりました。
同じ場所に置いている絵本の『くいしんぼうのあおむしくん』と『さかだちぎつね』も、概念の転覆と言えばいいのでしょうか、頭の中をひっくり返すという手法が『これは本である』と全く同じなんですよ。
読んでいるとショックを受けるというか、常識が常識でなくなってしまうようなひっくりかえしの手法は、大人向けでも子ども向けでも変わりません。
難しそうに聞こえるかもしれませんが、『くいしんぼう~』はロングセラーになっていて図書館でも気軽に読めます。
「子どもの時に読んで、タイトルも作家も覚えてないけど、探してる」と問い合せが多い絵本だそうです。それだけ子どもの記憶に残るのでしょう。
『さかだちぎつね』は頭がぐらぐらするようなショックを受けます。
1冊1冊手に取って見ていただきたいですね。そうすると難しいと遠ざけていたものに近づくことが出来ます。

 

<次回更新の後編に続きます>

 

「アートが絵本と出会うとき―美術のパイオニアたちの試み」
期間/2013年11月16日(土)〜2014年1月19日(日)
開館時間/10:00~17:00、土曜日・日曜日のみ~20:00 (入場は閉館30分前まで)
観覧料/一般 600円 大高生 400円 中小生 無料
休館日/月曜日
会場/うらわ美術館 ギャラリーABC
TEL/048-827-3215
http://www.uam.urawa.saitama.jp/

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