2013.12.18
「アートが絵本と出会うとき
―美術のパイオニアたちの試み」
インタビュー 後編
前回に引き続き、うらわ美術館「アートが絵本と出会うとき」展に関して
担当学芸員の山田さんにお伺いしましたので、ご紹介します。
― 作品を見て行くと、1回通り過ぎた作品を再度見返したくなります。
山田:作品たちがところどころリンクするように意識して構成しています。ここからロシアなどの絵本が日本に伝わり、ものすごく影響を与えていることを見ていただけます。
一見すると固い展覧会かも知れませんが、じっくり向き合っていただいて、絵本とアートはこうであるべき、というような既成概念を持たずに、広がりを柔軟に楽しんで欲しいと思います。
― 雑誌『きりん』が印象深いです。 まるで前衛美術の教科書のような表紙絵です。
山田:実は子どもが描いています。ところどころ画家が混じっていますが、初めて見る人には違いがわからないでしょう。
具体美術協会(「具体」)という関西の美術集団が関わっていたものです。具体美術協会は最近は海外で評価がとても高く、ニューヨークでは回顧展が開かれました。
彼らは子どもの絵画教室を開くなどして、子どもが作るものにすごく刺激を受けていました。珍しい美術運動だったと思います。
美術は上手い下手の概念で区別されがちですが、「具体」はもともと誰も作ったことがないユニークな表現に重きを置いているグループです。
吉原治良さんの描いた絵画では、彼が作った絵本も同じモチーフで、全く手を抜いていません。絵本のために何枚も何枚も下絵を描いた上、真剣勝負で向き合って表現されています。
美術と絵本との間にはいくつかの接点があり、つながり方はさまざまです。意外と注目されておらず、お互いの世界にいるだけでは気づかないことなんですよね。
出品作家たちは、絵画彫刻作品で実験している手法を、そのまま絵本の中にとりこんでいます。
それがおそらく絵本の表現を広げてきて、原動力にもなっていたと思うんですね。
元永さんの絵本は知っていても、彼が前衛絵画やオブジェを作ったりしていることを知っている人は少ないのではと思います。
絵画表現の中に表れる形も絵本の中に登場しているので、元永さん本人の中では、絵画も絵本も表現としての垣根はないのではないでしょうか。
ー 今回展示している絵本の特徴はありますか?
山田:大人が積極的に手を取るものではないかもしれません。物語があってかわいらしい絵があるという一般的なわかりやすい絵本ではありません。
絵本は児童文学の流れで語られることが多いのですが、今回は美術館の展覧会ですので造形表現の切り口で紹介しています。
どうしても絵本というと物語に沿ったイラストレーションとして、いかに内容を絵画化するかということが重視されがちですが、絵本の楽しみは言葉をいかに子どもに分かりやすく絵画化するか、だけではないと思うんです。
そのため、文字のない絵だけの本も展示しています。絵自体に力があるので、迫力があります。
元永定正『もこ もこもこ』原画
元永定正『こぼれいろだま』
ー 展示されていた『もこ もこもこ』の原画がすごくきれいで感動しました。
山田:あの原画は本当にきれいですね。
原画、立体、映像、油絵などを通して、絵本の中で完結している世界から一歩引いて絵本とアートのつながりを眺めてみたいというのがあり、展示しています。
オブジェの表現でさえ絵本と無縁ではないんですね。1人の美術家にとっては、媒体が何であれ表現への実験精神は同じなので。
このような作家たちの活動によって絵本の表現が広げられてきたと思うんですね。そうでなければ、どんどん絵本の世界は狭くなってしまうのではと思います。
ー 子どもの世界が大人によって作られてしまうということでしょうか。
山田:そういった部分は少なからずあるのではないでしょうか。
現代作家の作品にも、絵本制作と作家が重ねてきた画業が完全に切り離されてしまっているものがあります。
私は絵本制作の現場にいる訳ではないので温度差はあると思うし、展示作品の中にも、子どもの世界も知らずに自己満足の表現をしていると思われるかもしれません。ただ、こういうものもあったということは伝えたいです。
ー 展覧会を開催して、どんな気づきがありましたか?
山田:準備中には、やはり絵本の世界と美術館の世界がお互い遠いところにあると改めて気づきましました。
見方も違うし、方法論も違うんです。作品の扱い方も違います。いわゆる美術館で扱っている美術品の扱い方と、絵本の扱い方は違います。美術品は基本的に壊れてはいけないものですが、絵本は使うことに意味があります。
あと気づいたこととして、紹介している作家は、ほとんどがクロスジャンルで制作しているんです。版画もオブジェも映像も、と射程が広い。
絵本もジャンルの一つに過ぎなくて、だからこそヒエラルキーなしにやれたのかなと思います。一つのメディアが絵本だった、というだけで。
ロシアの作家も、社会とリンクしていたこともあって、ポスターをつくったりアニメーションつくったりしていますから。
これから絵本作家を目指す人にも、いろいろな表現を見てもらえればと思います。
「アートが絵本と出会うとき―美術のパイオニアたちの試み」
期間/2013年11月16日(土)〜2014年1月19日(日)
開館時間/10:00~17:00、土曜日・日曜日のみ~20:00 (入場は閉館30分前まで)
観覧料/一般 600円 大高生 400円 中小生 無料
休館日/月曜日
会場/うらわ美術館 ギャラリーABC
TEL/048-827-3215
http://www.uam.urawa.saitama.jp/