2013.10.23

松川村の食文化を

絵本にしたい!

授業を超えた学生たちの絵本づくり


 

武蔵野美術大学の芸術文化学科には、
産官学プロジェクトの一環として
長野県北安曇郡松川村の行事と行事食を
絵本にする事業があります。

この事業は、
2012年の春に「松川村の暮らしと行事食を伝える会(※以後 伝える会)」から
「行事と行事食を伝える絵本を一緒に制作して欲しい」という依頼を正式に受け、
村から助成金を得て活動しています。

松川村の記憶を松川村らしく継承するためには
従来の民俗資料や行事食をまとめた本ではなく、
気軽にページをめくることのできる媒体が必要であり、
だからこそ、絵本という表現を選んだとのこと。

武蔵野美術大学芸術文化学科の今井良朗教授と
絵本制作メンバーの学生さんたちに制作過程を伺ってきました。



―どうして地域の絵本を作ることになったのですか?


今井きっかけは、安曇野松川サマースクールに関わってきた学生が、
松川村の昔の生活を絵本にまとめ、卒業制作(2010年度)にしたことです。
それから「絵本の力はすごい」と、松川村の食文化を伝える絵本作りを
ムサビに協力して欲しい、と声をかけてくれたんです。
というのも、松川村と安曇野ちひろ美術館とは、ワークショップを共同で10年間も
行っているので、信頼関係ができていたからです。 

 

―どのように絵本制作を進めていきましたか?


浜田:まずは、絵本を使って松川村の魅力を伝えられることを理解していただくための
取り組みから始めました。
地域の食文化をまとめた本は長野県にも既にありますが
よほど興味のある方でないと手に取りづらいということ、
絵本は子どもだけの読み物でなく、また可愛くて楽しい世界だけではないことを
伝えたいと思いました。
絵本の表現方法も様々なので、メンバーで色んな絵本を読み比べました。
その中から村の魅力を伝えられる可能性の高い方法を10案考え、
「伝える会」の皆さんに提案しました。

 

IMG_5965_s.jpg

絵本づくりの当初から関わっていた浜田さん。
今井教授のもとで絵本を学ぶために芸術文化学科に入学したとのこと。

 


加藤この提案を通して、
絵本の物語として「松川村の食文化」を描くことに決定しました。
既に失われた食文化の資料などは伝える会の皆さんにまとめていただき、
それをもとに、メンバー全員で物語の原案を作りました。


浜田伝える会の皆さんが考えていたイメージをくみとりながら、
絵コンテと文章を制作しました。
ただ、絵コンテで作った画面構成を文字に置き換えると、
語る事をたくさん詰め込んだせいでとても書ききれなくなってしまって……。
もう一度見直して、内容を3案に分けることにしました。


今井絵本の作り方としては、頭の中のイメージを固めるために、
まずは文章を起こします。絵本をすべて文字に起こしたときに
どうなるかを把握するためです。

 

 

IMG_5984_s.jpg

左から、渡辺さん、相川さん、加藤さん。
相川さんは油絵学科からの参加です。

 


相川考えた3案のうち1つが、鬼の子の「とんすけ」の物語。
松川村史を読むと鬼が出てくる物語があったので、
主人公として登場させたらおもしろいかなと。
このときは、節分から始まる1年間を物語としてまとめました。


浜田鬼は松川村に馴染みがあるし、伝える会の方にも好評でしたよ!


加藤私は「こめたろう」というお米のキャラクターを作り、
稲作で1年を語っていく物語を作りました。
松川村にとって稲作は欠かせない行事だからです。
もう1案は浜田さんが考えたもので、「伝える会」の要望から、
おばあちゃんとの手紙のやりとりによって物語が展開するようにしました。


浜田メンバーで話し合って、最終的に、
とんすけの案とこめたろうの案の精度をあげて作り、
どちらかを選んでもらうことにしました。
2冊の仮の絵本を作り、再び「伝える会」に提案しました。
すると、どちらの案も良いところがあるからと、すごく悩んだそうなんです。
その結果、2案をくっつけて1つの話にしようということになりました!!
また「伝える会」の皆さんは、その画面構成を
手描きで描き起こして、私たちの絵を切り貼りして
仮の絵本を作ってくれたんです。
さらに、その絵本を、「伝える会」と私たちみんなで相談しながら、
修正していきました。


今井松川村の代表である「伝える会」の皆さんにとって、
「自分たちも作った」という共同制作の実感こそ重要です。
通常であればこういった制作は依頼する・されるの関係ですが、
今回はいっしょに作るというスタンス。
「伝える会」の皆さんが、私たちの仮の絵本を編集して描き直している様子からは
楽しんで絵本制作に携わっているということがよく伝わってきますよ。


―当事者である松川村の人達が、自主的に絵本の制作に携わったということですね


今井そうですね。私たちから「物語を考えて欲しい」と声をかけたのではなく、
皆さんが私たちの案を材料として自ら制作編集に携わってくれたんです。
依頼した側とされた側の両方に情熱が無いと成立しない珍しい作り方ですが、
これこそ共同制作だと思います。
私たちの仮の絵本を切り貼りしただけでなく、
新しい絵が必要な箇所には自分たちで直接絵を描いています。
皆で描くという楽しさを体現しています。

 

 

IMG_5968_s.jpg

こちらが、伝える会の方がつくった仮の絵本です。

 

 

IMG_5969_s.jpg

伝える会の方は、絵を切り貼りして文字で説明することで
自分たちの想像している絵本を制作しています。 
この仮の絵本を基に、学生たちが表現方法を試行錯誤していきます。 

 


浜田3日間かけて作ってくれたみたいなんです!
また、プロジェクトとして村の助成金を得るために行政に申請を出したときの
「どうして地元の大学ではなく、東京の美大に依頼したのか」という質問に、
「伝える会」の方は
『ムサビの人たちは、11年前からワークショップなどを通して
村のことを理解しているし
こんなに良い絵本を作ってくれる人たちだから』と説得してくださったんです。
後日にその話を知り、とてもうれしかったです!!


―伝える会の仮絵本を、実際の絵本にしていく上で工夫したことはありますか?


浜田松川村の風景を描写したいと思い、横長のヨコ開きにしました。
また、「伝える会」が考えてくださった文章にありましたが、
主役の鬼のこの問いかけに対して村のおばあちゃんが応えるという繰り返しだったので
内容にメリハリがつくよう、私たちで会話のバリエーションを考えて、
キャラクター同士が自然に会話をしながら行事を伝えるという表現にしました。
内容を膨らませたい部分は絵で表現し、文章をスリムにしていきました。

 

 

IMG_5977_s.jpg

左から、大谷さんと菊池さん。
メンバーには小さな頃から絵本を読んでいる方ばかり。
絵本をつくる行程を目の当たりにすることで、 学ぶことがとても多いそうです。

 

 

プロジェクトはこれからも続き、いよいよ印刷の行程へ進んでいくとのこと。
絵本のできあがりがとっても楽しみですね!

 

IMG_5990_s.jpg

インタビューの終わった後の雑談中に
セーラー服で有名なアヒルを描いてみたり。 
わきあいあいとして、とても仲良しなチームです。

 

 

IMG_5985_s.jpg

みなさん、ありがとうございました!!

 

2013.5.30

さいとうれいこさん

『おしゃれっぽきつねのミサミック』

制作裏話 ④

 

さいとうれいこさんと編集の安藤さんによる裏話ご紹介も、本日で最終回です。
お二人にとって、絵本はどんな存在なのでしょうか……?


IMG_5394_s.jpg展示されていた原画です。
絵本と比べてみると、文字が入っているかいないかで
受け取る印象って変わるな、と実感しました。


第4回「私にとっての絵本」


―絵本、そして絵本のチカラとは何だと思いますか? 

さいとうれいこ(以下S):私にとっては、子どものときの私を救うものですね。
同時にいまの私を救うものかもしれません。
子どものころ、ものをなくすとこの世の終わりが来たみたいに落ち込みました。
でも、大人になってからバッグにつけていたチャームを落としたとき、
あまり落ち込まなくなっていたことに気づいて。
それ自体がすごくショックでした。子どものときはあんなに落ち込んだのに。
絵本作家になりたいと思ったときから、
子どものころの気持ちを忘れないようにしようとしている部分もあります。
 

 

―作品でもあり、自分の記録でもあるということですか? 

S:そうだと思います。
一人よがりにならないよう気をつけているのはそのせいもあるんです。
読者がすごく大事だっていうのはわかっているのに、
つい全面的に自分が出てしまうので。
たくさんの人に読んでもらいたいなら、
たくさんの人にわかってもらえる要素も入れなくちゃと思っています。
 

安藤康史(以下A):私にとっては、絵本はまず仕事のひとつです。
子どものときから本は好きでしたが、
出版の仕事に就いて児童書や絵本を担当しているのはたまたまだったんです。

 

―安藤さんは、『おしゃれっぽきつねのミサミック』を担当されて
どんなことを思いましたか。
 

A:いままでに作ったあらゆる本の中でいちばんの自信作が、この『ミサミック』です。
最初に私のところに持って来ていただけてよかったと思っています。
後輩が購入して1歳くらいのお子さんに毎日読んでいるらしいですが、
ムウムさんを「モーモさん」と呼びつつ、
すごく気に入ってくれていると聞いています。
その子にとって最初に読んだ絵本になったんだと思うと、
いい仕事させてもらったなと実感しています。
大きくなって絵本を読んだことは忘れてしまっても、
何かのかたちでその子の中にずっと残りますから。
 

S:知り合いの保育士が、
「幼稚園の子にはこの絵本はちょっと難しいね」
と言っていたので、それを聞いてほっとしました。
今井教授は
「絵本を何歳向けと決めつけるのはおかしい。
その子によって成長の度合いは違うのに、母親が選びやすいようにするためだけに
対象を設定するのは、可能性を奪うことになる」
と思っているそうです。
○○歳だからこれを与えましょう、というよりも、
年齢を気にしすぎずに絵本の楽しみ方を
読者の一人ひとりにゆだねていこうと考えるようになりました。
 

A:対象年齢を表示することには、読者が選びやすくなるという利点もあるので、
私としては、つけても構わないと思っています。
ただしそれは漢字やかなの表記をどうするかの話であって、
それさえ守っていれば、多少難しい言い回しもアリだと思っています。
一見、矛盾するように思われるかもしれませんが。
たとえば、『ミサミック』には「ひがないちにち」という言い回しが出てきます。
 

S:好きな言い回しなので、使いたかったんです。 

A:大人が読んだって、1冊の絵本を100%理解することはないでしょう。
「『ひがないちにち』って何?」と子どもが親に聞いたり、
大人になってから初めてわかることがあったりと、
子ども一人ひとりの成長に合わせて、理解が深まればいいと考えています。
初めから子どもの力を、ことばは悪いですが「ナメてかかる」べきではないと、
これは私がこの仕事に就いてから、ずっと肝に銘じていることですね。

 

 

 

絵本の作り方は、人それぞれ。
絵本に対する思いも、人それぞれ。
私にとっての絵本とは何だろう?と、じっくり考えてみたくなりました。


さいとうれいこさん、安藤康史さん、
とっても素敵なお話をありがとうございました!

また後日、絵本の表紙絵のヒミツなどをメルマガにてご紹介いたします。
この機会にぜひメルマガ会員にご登録ください♪
ご登録はこちら! 


 

IMG_5395_s.jpg

さいとうれいこさんの次回作も、とっても楽しみにしています〜!
ありがとうございました〜!! 

 

2013.5.29

さいとうれいこさん

『おしゃれっぽきつねのミサミック』

制作裏話 ③

 

まだまだ続きます!さいとうれいこさんと編集の安藤さんによる裏話をご紹介♪
絵本制作時のあんなテクニックやこんなテクニック、ご存じでしたか?


IMG_5387_s.jpg展示されていた原画です。
森の中で絵を描く場面の原画(左)は
原画と印刷された絵とでは、また印象が異なって素敵でした。 



第3回「色へのこだわり」

 

―さいとうさんは色へのこだわりが強いですよね。

さいとうれいこ(以下S):中間色が大好きです。
けれど、子どもの目には原色の方がすごく映えて見えるんです。
なので全部は中間色にせずに、明るい色を1つ2つ画面に入れることを決めて、
描き進めていきました。
中間色をたくさん使いたくなっても、絵本には反映させたくないので、
そこは我慢して、他のイラストを描いて発散します。
そのため、イラストと絵本の絵とでは雰囲気が異なります。
一人よがりにならないための対策のひとつです。

安藤康史(以下A):発散しているという話は初めて聞きましたが、
それでこのような画面が作れたのかと納得しています。
色については、全面的にSさんにおまかせしています。
私も多少は絵を描くので、
ダミー絵本を見てSさんの色彩設計にすごくひかれたんです。
色数が多くても、ごちゃごちゃせず、全体として調和が取れていると感じています。

 

 

IMG_5379_s.jpg

ダミー絵本を一部拡大して撮影しました。
さまざまな青色が並んでいます。 

 


S:フランスの色鉛筆を何百色と持っていて、
ダミー絵本に使った色の名前を描き込んでいきます。

A:私は色鉛筆をちゃんとグラデーションに並べてしまっておかないと
気が済まないたちなので、Sさんのダミーを見て、仲間だと感じましたね。

S:同系色でまとめてあるんです。そこに子どもに受ける「差し色」を入れます。
雰囲気の違う色を入れたいと思ったときは、その面積を小さくします。
同系色で調和が取れている世界を崩さないように。
グラデーションは常に意識してはいますが、
この絵本でサブキャラクターたちの色がグラデーションになっているのは
たまたまです。
最初は動物のつもりで描いていたので茶系の色を使うことが多かったのですが、
性格などのキャラクターを設定した段階で、
動物を意識した色を使わなくてもいいと思うようになり、自由に色を決められました。
好きな色を選んだら、お気に入りのグラデーションができてしまったんです。



―森の中で絵を描く場面は、ダミー絵本の段階ではありませんでしたね。

A:ダミーから大きく変わった、印象的な場面です。

S:変更する前は、クライマックスの直前なのに画面がさみしいなと感じていました。
すると
「森の中で絵を描いてもいいんじゃないか」
とAさんにご指摘いただいて。
この青はイラストを描くときには使っていましたが、
子どもの絵本には使えないと思っていたんです。
でも、森と言われた瞬間に、好きな色を使ってもいいよね?と思ったんです。
緑を使う気はありませんでした。もともと緑を使うのが得意ではないんです。
絶対に本物の植物が持つ緑には負けてしまうので。
何と言われるか心配でしたが。

A:暗い森の場面にするのがいいとは思いましたが、
こんなに全体的に青い絵に仕上がるとは思っていませんでした。
でも同時に、これでよかったと思いました。

S:他の画面でも明るい色ばかり使っているので、
この場面でぐっとトーンを落とせるなとうれしかったんです。

A:私自身は、暗い画面が少ないということは気にしていませんでした。
それよりも、ムウムさんが夜の青いドレスを着たミサミックを描くなら、
ダミー絵本にあった明るい草原ではなく、
暗い森の場面にした方がいいのではと考えたことが、理由としては大きいです。

S:青は寒色なので昔は好きじゃなかったんです。
だから一時期、どの青なら自分は好きになれるのか、と
青ばかり研究していた時期がありました。
その色をそのまま使ったので、楽でもありました。

A:絵本のチカラブログの紹介でも、この場面が取り上げられていたので、
よかったなと思っています。

S:この場面を気に入っていただける方が意外と多かったんです。
びっくりしました。
私としては絵本にはふさわしくないと思い込んでいたので。
ただでさえ自分の絵は、中間色が多かったり、
描き込みすぎたりということを気にしていたんです。
でも、読者の方に「すっごくよかった」と感想をいただき、今井教授にもほめられて、
自分の感覚を一人よがりだと思い込んでいただけだったと気づきました。
どこかでほかの人の感覚をパターン化して思い込んでいたのかなとも。



―どんな画材を使っていますか?

S:主にアクリルガッシュと色鉛筆です。
コラージュもして、色をぼかしのばす部分ではパステルを使っています。
アクリルガッシュは油絵のように濃いままで使ったり、
透明水彩で使うように水でのばして使えたりするので、すごく描きやすい画材です。
細かい線が好きなので、最後は色鉛筆で仕上げます。
アクリルは重ねすぎると色鉛筆がのらないので、重ねる部分を決めておきます。
あとは、ミサミックのスカートの下地には小豆色が塗ってあるんです。
深みを出したくて。
その上に、クリムソン、カーマイン、ピュアレッド、スカーレットと重ねています。
ぱっと見は柔らかな赤色になりますが、
人は無意識に色の深みを感じ取ってくれるかなと。
ミサミックも同じように小豆色で塗って、
さらにベージュ、アイボリー、チャイニーズホワイト、チタニウムホワイトを
1色1色重ねて作ってるんです。


―スカートの赤はすごく印象的です。

S:今井教授が
「白黒コピーすると凹凸が出ているか確かめられるんだよ」
って私の原画をコピーしたら、スカートが真っ黒になったんです。
「赤は普通こんなに黒く出ないぞ」
とおっしゃるので、
「実は小豆色が隠れているんです」
と言うと
「やっぱり」
と納得していただけました。


―白黒コピーで凹凸を見る、とは?

S:グレースケールで見ることによって、実際の色で見るよりも、
階調がわかりやすくなるんです。
それによって、画面にメリハリがついているか確かめられます。
「この画面がなんかぺたんとしちゃって」
と相談したときに、
「コピーしたらわかるよ」
と今井教授に教えていただきました。
そうして見たところ、同じ明度のグレーばっかりだったんです。
色をつけてしまうとメリハリがわかりにくくなりますが、
たとえ色相が異なっていても、明度と彩度が同じになってしまっていたから、
ぺたりとした印象だったんだな、と。
それからは明度を調節できるようになりました。


 

④に続きます。お楽しみに!

 

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