昨年10月、作家エージェント「コルク」が設立された。彼らは出版社から収入を得ていた従来の編集プロダクションとは異なり、契約作家から収入を得て、作品の価値を引き上げるために働く。
今、出版界では、コルクがなければ存在しえなかったプロジェクトがボコボコ生まれている。
同社を率いる佐渡島庸平氏(代表取締役社長)は、講談社出身の33歳。『ドラゴン桜』『宇宙兄弟』をヒットさせてきた彼の挑戦に、未来の出版の姿を見る。
――佐渡島さんは講談社を退職されて起業なさったわけですが、その挑戦を後押ししたものはなんでしょうか?
『宇宙兄弟』の映像化が一段落して、次にどんなことをしようかと考えた時に、講談社内でやりたいことが思いつかなかったのが、いちばん大きな理由です。10年間働いて、会社の中でやれる仕事はやりつくしちゃったと僕は感じました。
僕は編集者を“作家をサポートする職業”だと思って出版社に入りました。しかし、そうはいっても企業人でサラリーマンだから、会社の事情も考慮しないといけないわけで、作家を第一に考えて決断できない場面がでてくる。作家のためにこうすべきというアイデアがあったとしても、「今はまだやめてくれ」と再考を促されたり。
いろんな社内事情を考慮しながら、担当編集者として決断する。そのたびに「もっと自由な立場から思ったことをガンガンやりたい!」という気持ちが大きくなっていきました。
今振り返ると、起業は必然です。
――作家の側にもエージェントを求める市場があると思われていましたか?
エージェントがあったほうが、作家が仕事しやすくなるとは感じていました。ただ、これまでの日本になかったんだから、作家たちから手を挙げて「作ってくれ」ということにはなりません。馬車の時代に、見たことがない自動車に乗りたいと、人々が言い出さなかったのと同じですよね。
――では、日本ではまだめずらしい作家エージェントのビジネスモデルについて教えてください。
僕らは作家から手数料をいただいて、作家のために働きます。
フリーの編集者や編集プロダクションだと出版社が雇い主になるので、作品をどうするか、その決定権は出版社にあります。でもエージェントは作家のために働くので、ある出版社からダメといわれても、別の出版社に企画を持っていきます。出版社の編集者だと、会社がダメと言った企画は、そこで終わりですが、エージェントである僕らと作品の縁は切れないということです。
僕らの場合、作品は打ち合わせを重ね、一から一緒に作っています。コルクの編集者がいなければ作品の質が下がるという風に感じてもらえる存在にならなくてはいけません。
――契約を結べば、御社も作家が売れなくなるリスクを背負いますね。
作家、漫画家の方で、20年、30年、活躍している人は、本当に少数です。それは、作家の実力が足りないからでしょうか? 僕は、そうは考えていません。人事異動などで出版社側に熱心に対応する人間がいなくなっているケースも多々としてあると思います。その作家に対して一生懸命やる編集者さえいれば、売れ続けていたかもしれません。
長期的な視野で、サポートしてこそエージェントの価値があると思います。
契約作家を一生かけて担当することは、リスクではなく楽しみです。作家の年齢が上がっていって、描くものが変わっていくのをずっと見られるわけだから。
オフィスにて、佐渡島氏。この笑顔に安心を感じる作家は多いだろう。
※後編に続く。後編の配信は6月24日(月)になります。