アメリカで魔女が流行っているそうだ。満月の夜には各地で魔術のワークショップが開かれているのだという。
「宗教はダサいけど、オカルトはクール」
というのが10代から30代前半までのミレニアル世代と呼ばれる層のトレンドだ。
谷口は
「魔女の儀式」
とコメントカードに書き入れた。
儀式というのは目に見えるものを使うことによって、自分の力以上の成果を得ることだ。例えば生贄の儀式などがそうである。
アメリカで起きている魔女ブームは、魔女=クールという印象がそうさせるそうだが、近代文明がまだ侵入していない国には未だに魔法が存在する。単に信じられているだけではない。信じられているものが存在するということだ。
我々は「信じられている」ものが「存在している」ということとイコールではないと思っている。
しかし「信じている人」はそもそも自分が「信じている」とは思っていない。彼らが信じているものは彼らにとっては事実なのだ。
我々は天動説を信じた人達を決して馬鹿には出来ない。誰にも教えられない限り、自分が立っている地面が高速で動いているなどとは考えない。
中世の人間にとって動いているのはまぎれもなく太陽そのものだった。彼らは別に「天動説」という学説を信じていたわけではなく、当たり前の事実として地球の周りを回る太陽を眺めていた。
我々も同じで、「信じている」ということすら認識していない事実が世の中を動かしている。
例えば株価はどうか。株価は企業の実態を正確に映しているとは言えない。そうではなく、皆が成長すると「信じている」企業が「実際に」多くの投資額を得る。
株価が下がると魔法は解ける。投資家たちは
「信じていたのに!」
と嘆く。
我々が生きる世界も、多くの儀式に満ちている。十分魔術的だ。
魔術を興味本位でかじってみるアメリカの人たちより、魔術的なものに支配されているにも関わらず、自分は文明的だと思い込んでいる我々のほうが奇異なのかもしれない。