研究会ブログ

2016年03月25日 Fri. Mar. 25. 2016

文化経済2016.3月講演レポート②/西村毅氏

3月16日に開催されました第82回文化経済研究会、

第2部スピーカーは、株式会社象彦代表取締役 西村毅氏。

 

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■次世代へのたすきのため、いらんことはしない

「今の漆業界が悔しいんですよね。100年前あれだけ凄い物を作っていたのに、今は買う人が居ない。オーダーが無いので、仕方がありません。ほとんどの老舗の店主の役目は1つ。たすきをあずかり次に渡すこと」


そのための家訓が何冊もあり、経営者の心得や家の者の心得、従業員の心得、年中行事まで定められてどのような時候にどこの神社にお参りに行けばいいかまでが書かれているそう。

 

「社長になってしまうと私の頭を押さえつけてくれる人は居ません。だから頭を押さえつけてくれる家訓を大事にしています。その中で、身の丈に応じたことをする、というのがあるのですが、私はそれが好きなんです。一時的に儲かったら、身の丈を弁えてあまった分は社会に還元してしまう。

特に、美しさを表現するためには100年後のことを考えなければいけません。京都だと特にその辺りがうるさいので(笑)。その時に、居心地の良い空間というものはやはり余計なことをしていません。どこを見ても手は抜かない代わりに、「いらんこと」はしない」

 

ここから、西村氏は付加価値という言葉を使いません。もともと価値があるのに付けて加えたら蛇足になる。余白と言う言葉もありますが、余った空間なんて無い。デザインにおいて空白があるとすれば、それは空白だから素敵というお考えです。

 

■全てに意味がある日本のおもてなし

「一富士二鷹三茄子と言いますが、茄子は付けた花は全部実を付ける、そういう意味でめでたい。日本はデザイン一つ一つに思いを込めている。これが海外では非常に珍しいらしいんです。

以前、マレーシアのある企業の社長のご子息がデザイン勉強に来た時、君が社長になった暁にはこの桐と竹が描かれているお椀でご馳走をしようと言ってあげると、ポカーンとしていました。

日本で桐と竹と言えばすぐに鳳凰を連想しなければいけません。鳳凰は素晴らしい君主の時代にだけ現れる鳥です。だから素晴らしい社長としての未来を願っていると言うと感心していました。

料亭などはそういう文化が特に多く残っている場所です。例えば、魚の切り方とってみても、お年を召されている方のものは噛み切れるように薄く切られており、若い人のものは分厚くなっています。そのもてなしが日本文化で、私たちはその演出をするための道具を作っているんです。だからそれに負けないぐらいのデザインをしなくてはなりません」

 

お正月に飲むおとそや、雛人形や七夕、それぞれに意味が込められている日本のデザインに我々は日々囲まれています。それらの意味に目を向けると、象彦が受け継ぎ次世代に渡そうとしているデザインがとても身近なものだと気づきます。

 

■フランスで勝つ。世界とのコラボレーション

「フランスの彫刻家ミシェル・オディアール氏とコラボレーションをして万年筆を作りました。

何故そのようなことをしたかと言うと、日本にお客さんが居なかったからです(笑)。

市場調査をしようにも、調査ができるほどの市場が無い。しかし顧客は世界に居ると思い、コラボレーションできる企業を現地に探しに行きました。

フランスを選んだのは、中国やアメリカ市場に出れても、フランスで認められなくてはヨーロッパで認められないと思ったからです。

数十社に飛び込みでコラボレーションを頼みました。やがてミシェル・オディアール氏の工房を訪れたところ、いきなり何をしにきたんだと結構怒っていました(笑)」

 

「『貴方は世界一の万年筆を作る。我々は世界一の漆を作る』とコラボレーションの話を切り出すと、急に机に向かってデザインのスケッチを描き始めました。そして『これ、できるか』と言われたところからスタートしました。全てが一点ものなので大きくは売れませんが、一石を投じることができました」

 

他にもバカラ、ヴァシュロンコンスタンタン、ダビドフなど世界のメーカーとコラボレーションをしています。世界の某ラグジュアリーブランドからもコラボレーションの誘いが着ましたが、ヴァシュロンコンスタンタンとの義理を守るために辞退したそうです。

日本の伝統を守っていく誠実さと、そのためには世界ブランドを相手に一歩も引かない強さに象彦の誇りを感じました。

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