研究会ブログ

2016年07月22日 Fri. Jul. 22. 2016

文化経済2016.7月講演レポート②/佐々木俊尚氏

7月14日に行われた第84回文化経済研究会のレポートをお届けします。

第2部ゲストスピーカーは、ジャーナリストでTABI LABO編集長の佐々木俊尚氏。

 

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毎日新聞という言論の中心にありながら、独立後はメディアの最前線であるキュレーションメディアを自ら立ち上げられるだけでなく、新しい生き方としての移住・多拠点生活を実践なさるなど新たな旗手として活躍されています。(移住・多拠点生活に関する佐々木氏の講演レポートはこちら

 

■情報は向こうからやってくる

現在スマートフォンの普及率は若年層に限るならば9割程でほぼ全員がスマートフォンを所有しています。

かつて、ヤフーニュースを初めとするネットのポータルサイトが新聞を脅かす存在と見なされていましたが、スマートフォン時代になった今、もはやヤフーニュースすら若年層は閲覧しません。

彼らが見るのはFacebook、TwitterなどのSNSに流れてくるニュースです。しかしますますせっかちになる生活者は、SNSから外部のサイトに移動する時間すらも待てずに、数秒以上表示に時間がかかれば移動をキャンセルしてしまう。

そこで登場したのが「Buzz Feed」などに代表される「分散型メディア」と呼ばれる考え方です。

分散型メディアは自サイトにユーザーを呼び込むのではなく、SNS自体に記事を表示することによって移動のタイムラグを解消します。

かつて情報を得ようと思えば新聞を自ら購読しなくてはなりませんでしたが、今や情報が向こうから飛び込んできてくれる時代に入っています。

 

■新聞は読み手のことを考えているか

毎日新聞記者時代、佐々木氏は他の記者仲間とのスクープ合戦に精を出していましたがある時ふと疑問を覚えます。

 

「新聞は書いたらもうお仕舞いで、それを読者がどれぐらいの時間目を通したのかは分かりません。

自分が取ってきたスクープで、仲間や他社に『やられた!』と悔しがられるのは気持ち良いですが、はたしてずっと内輪だけでやっていてもいいのかな、と」

 

毎日新聞から独立してから立ち上げたTABI LABOは他のネットメディアと同じく、ユーザーがどのような経路からどの記事に目を通し、どの程度そのページに滞在したかを如実に把握することができます。

言論界における究極のユーザー目線です。

目を引くタイトルアップでユーザーのクリックを狙い、中身が伴わない悪質な「釣り記事」を排除する動きも各SNSに見られ、ネットメディアにおける情報の健在化は正に発展途上にあります。

 

■メディア=文化圏

20代の女性を中心に支持を集めるネットメディア「MERY」が今春に紙媒体を発行し、それが瞬く間に売り切れた例を挙げ、佐々木氏は

「雑誌とネットの境界はもはやありません。メディアは一つの文化圏です」

と分析します。

 

『暮しの手帖』松浦弥太郎氏が、立ち上げた「くらしのきほん」が人気であることからも明らかなように、生活者は一つの確立された世界観を打ち出してくれるものがあれば、それがネットであろうが紙媒体であろうが気にしなくなっています。(松浦弥太郎氏 文化経済研究会講演レポートはこちら

 

また、佐々木氏が記者時代には広告部と編集部の間には絶対に埋まらない壁があり、それが編集権の独立を守っていた面もありましたが、今やユーザーはタイアップ記事に対する抵抗が全くありません。

コンテンツが自分にとって有益であれば、それがタイアップであろうが純粋な編集視点のみに則り書かれたものかは気にしないのです。

 

「一つの技術がどう進化するかは予測できます。でもそれが何をもたらすのかは分かりません」

 

スマートフォンの発展はある程度誰もが予測できましたが、そこから神聖不可侵とされていた編集権のあり方までが変わると予測できた人はおそらく居なかったのではないでしょうか。

 

技術の進歩は単に生活水準だけではなく、概念や文化まで変えていくことを実感できました。

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