研究会ブログ

2016年09月23日 Fri. Sep. 23. 2016

文化経済2016.9月講演レポート②/山本豊津氏

9月15日に行われた第85回文化経済研究会のレポートをお届けします。

第2部ゲストスピーカーは、東京画廊 代表取締役 山本豊津氏。

 

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(山本氏に関する以前の記事はこちら)

山本豊津氏著書『アートは資本主義の行方を予言する』

山本豊津氏に学ぶ、文化と芸術の力

 

■フランス革命が「アート」を生んだ。

「以前、3億円のピカソを銀座から麹町に運んだ時に保険をかけていたんですが物流業者の課長さんもずっと付きっきりで、トラックでピカソと課長さんが一緒に運ばれてきました(笑)」

 

と会場の笑いを誘う導入が、実は近代以降の芸術の価値形成に大きく関わっているエピソードでした。

 

「フランス革命で職業文化が生まれたことで、世界に作る人。売る人、買う人という役割分担が生まれました。

更に、1970年に金本位制から離脱したことで、大量のマネーが世界に浮遊します」

 

教会や聖堂など建築の付属物近代に入り自由な経済圏というものが生まれたことによって、芸術は動き回ることができる商品になりました。

数億円分の現金を持ち歩こうとすれば大変ですが、絵画であれば脇に抱えられます。そこで絵画に浮遊したマネーが集中し、数億円単位の作品が取引される業界となりました。

 

■価値と価格の違い

「皆さんに伝えたいのは、価値と価格は連動しているけど別物だということです。「価格」は一人ひとりの人間に労働力としての価値があるという近代に始まった時給という考え方がベースで、「共時的」に共に同じマーケット上で価値を持っているということです。

ところが、もう一つ「通時的」な歴史を通した価値がある。縄文から始まり、中国や朝鮮半島からの文化を経てここに列島で暮してきたという歴史の持つ価値です。共時的な価値が価格。この時代に同時にあるものが価格を決定している。価値は変化せず、価格が変化するんですね」

 

アートと並んで価格が著しく変化するものの一つは土地ですが、それで経済が回っていたことを上手く利用して街を作ったのが阪急東宝グループの創業者小林一三でした。

戦後復興を見越していた小林は、復興を支える人々が住むための家の必要性に気付き、彼らが将来生み出すであろうお金を前貸しする形のローンで住宅を売るということを考えたのです。

 

その着眼は大成功し、小林の手腕は阪急電鉄と神戸を中心に関西の文化を作り上げましたが、マイナス金利が象徴するように、もはや成長していく経済を当てにしたシナリオは立ち行かない時代になってしまいったと山本氏は話します。

 

■資本主義から資産主義へ

「今フィレンツェの景観は、未だに観光の収益になっています。イタリア人はその資産の運用で500年食べている。フランスはモナリザの貸借と引き換えにウランや戦闘機の売買を他国に迫っています。

それが資産です。浮いたお金を都市計画やアーティストにかけたんです。

日本は敗戦以降、資産となるものを遺したでしょうか」

 

そして、山本氏は「今は資本ではなく資産の時代」と断言しました。

社会が永続的に発展し、資本の価値は無限に増殖していくという前提の上で資本主義が成り立っていましたが、もはやそれは神話に過ぎなかったことが明らかになっています。

イタリアのフィレンツェや、フランスのモナリザのように数世紀に渡ってそれだけで観光が成り立つだけの「資産」が日本にあるとは言いがたい。

 

「今我々の課題は、次世代が食べていけるだけの資産を作ることじゃないかなと思います」

 

と投げかける山本氏のお話しは、アートの話しから金融、歴史に飛んだと思えばまたアートの話しに戻ってくるなど、様々なジャンルを横断して展開されて正に縦横無尽でした。

世界という横糸と、歴史という縦糸がどのように織られて、現代においてアートがどのような役割を果たしているのかを「資産」という言葉に帰着させた本講演は、そもそも価値とは何であるのかという根本的な問いに我々を向かわせるものであったと思います。

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