研究会ブログ

2016年09月16日 Fri. Sep. 16. 2016

文化経済2016.9月講演レポート①/中村拓志氏

9月15日に行われた第85回文化経済研究会のレポートをお届けします。

第1部ゲストスピーカーは、建築家でNAP建築設計事務所 代表の中村拓志氏。


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(中村氏に関する以前の記事はこちら)

中村拓志氏氏著書『微視的建築論』

建築はトップダウンからボトムアップへ 中村拓志氏の哲学

 

■アンチ近代を超えて

演題は「コミュニケーションを 建築する」。

 

「地域性すなわりリージョナリズムはかつてからアンチ近代として存在していましたが、最近は違った流れとしてでてきました」

 

と始められました。

ある建築物が世界中のどこにあっても違和感がないということは、裏を返せばその建築は世界中の何処にも根ざしていないということ。普遍性を追求した近代への反発として、地域性を重視する「リージョナリズム」が出現してきましたが、中村氏は近代へのアンチテーゼというようよりも、人間と建築の関係を根本的に問い直したときに必然的に現れてくる結果としてのリージョナリズム、更には「身体性」を重視します。

 

「あらゆる領域でネットとの対称性が問われています。例えば、Amazonであそこまで書籍が充実した結果として、蔵書量や検索性ではなく編集性などの独自性を書店が模索しています。

スマートフォンによって、人類は有史以来空前の規模でガラス板をなぞるようになりました。スマートフォンが人間の行動様式を変えたんです。ガラス板をなぞる人類に、建築の視点からの新たなデザインを大事にしたいと思っています」

 

■建築と行動操作

「建築はもともと人の行動を規定しデザインするというのが得意でした。

例えば、日本の茶室ではあえて入り口を狭くすることによって、刀を外し、お辞儀をするようにしてしか入れない空間を作った。開口部を小さくするだけで行動をデザインした。

飛び石も、大きさや方向を工夫することで人の行動を操作します。地に落ちている椿の花を見てほしければ、飛び石の方向を少し曲げて、大きさも小さくすれば人は必然的に足元に気をつけます」

「西洋でも、ゴシック様式の大聖堂は高さを追求することで礼拝者は上空を見上げ、天に居る神を感じるでしょう。アール・ヌーヴぉは近代で失われる人間性を取り戻すために、曲線の螺旋階段で独特のリズムを身体に刻ませることを目指しているのではないでしょうか」

 

他にもお祭りなどは、オブジェクトの周りを人々がぐるぐると同じリズムで踊り歩くことで高揚感を得ます。

古くから人類、特に権力者は建築が持つ力を把握し、利用していたといえるでしょう。

 

■コンセプトを作品に宿す

幾つかの作品をお見せくださり、自らの哲学がどのように建築作品に対して表れているかもご説明いただきました。

 

「広島にあって瀬戸内海を望むRibbon Chapelでは、結婚式場というコンセプトから出発したので、二つの道が一つに合わさるということをテーマにしています。

 

螺旋階段というのは一つだけだと不安定で頼りないものですが、二つが合わさることで強固さを獲得します。その階段も、すれ違いや平行線を経て、やがて一つになっています。

その建物を多数の人が共有することによって、親族の想いも建築に託しています」

 

人の行動をトレースしつつデザインする中村氏にとって、身体が触れ合う部分全ての建築部分が何故そのような形であるかを問われます。

特にドアノブは「建築との握手」と考え、形状は勿論素材の手触りまで徹底的にこだわるのだとか。

 

「ハコモノ行政」という言葉であったり、最近ではオリンピックの競技場を巡る騒動で建築に対して厳しい風が吹いているようにも見受けられますが、中村氏の建築観からは重厚長大産業が大手を振るっていた時代の気配は全く感じられません。

まるで建築物は木々やさんご礁のように当たり前にそこにあり、様々な生物が集うための一つの有機体が新たに出現したかのようです。

人類が自然、地域と共生していた時代への回帰が始まっているように思えました。

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