研究会ブログ

2017年07月21日 Fri. Jul. 21. 2017

文化経済2017.7月 講演レポート②/梶川貴子氏


 

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7月13日に行われた第90回文化経済研究会、第2部では株式会社ウェルネス・アリーナ代表取締役社長、梶川貴子氏にご登壇いただきました。

 

自社ブランド「ALL THAT SPA」を中心として、日本国内にてスパを運営するウェルネス・アリーナ。日本におけるスパ事業では、まさに草分け的な存在です。「足元の財」を活かし、日本独自のスパを生み出し続けるその着眼と哲学について、お話をいただきました。


 

 

・洞爺と宮崎、ふたつの経験から「日本」を見た・

 

大学卒業後、ボストン・コンサルティング・グループにて企業戦略の立案に従事していた梶川氏。活躍の場を日本コカ・コーラに移してからも、ブランドマネジャーとして「爽健美茶」の立ち上げを主導。しかしその後、ふたつのホテル再建事業に参画したことが、キャリアの大きな転機となりました。

 

まず携わったのが、「ザ・ウィンザーホテル洞爺リゾート&スパ」。再建にあたって打ち出されたのは、“食コンテンツ”の充実化。ミシュラン三つ星の「ミシェル・ブラス」を筆頭に、国外の名だたる食のブランドが集まりました。ウィンザーホテル洞爺として2002年に再スタートを切ると、日本国内では大反響。しかし、海外からの評価は辛口でした。英国風のホテル名に、集まったブランドはフランス。このちぐはぐ感、そしてこれがなぜ日本のホテルでなければならないのか。このホテル再建プロジェクトは、梶川氏が「日本固有のオリジナリティとは何か」を考えるきっかけでした。

 

そして宮崎の「フェニックス・シーガイア・リゾート」。外資ファンドが再建を主導したプロジェクトですが、ここで梶川氏が目の当たりにしたのは“古事記を学ぶ外国人たち”の姿でした。日本で作るホテルなのだから、日本固有の文化を反映し、活かさなければ意味がない。日本人でさえ読んだことないような古事記を丹念に読み込み、時には宮崎の民間伝承を地元の語り部から学ぶ……。利益最優先の“ハゲタカ”というイメージからは程遠いその姿勢に、梶川氏は衝撃を受けたといいます。この経験がいよいよ、「足元の財」を活かすという氏の方向性を確固たるものにしました。

 

 

 

・信念を形に・

 

2006年、株式会社ウェルネス・アリーナを設立。自社スパブランド「ALL THAT SPA」を立ち上げ、インターコンチネンタルホテル大阪内に「ALL THAT SPA OSAKA」を開業したのは2013年のことでした。以後、15年は瀬戸内リトリート青凪にて「ALL THAT SPA SETOUCHI」、16年はホテルカンラ京都にて「KANRA SPA by ALL THAT SPA」を相次いで開業。現在では国内5箇所で自社のスパを運営しています。

 

フェイシャルオイルなど、ALL THAT SPAで使われているプロダクトの多くが自社で製造されたオリジナル商品。日本製を謳いながら、その実、原材料は海外産といったものが世に多いなか、ALL THAT SPAのプロダクトは原材料の段階から徹底的に国産を貫きます。日本に固有な足元の財を活かす。梶川氏がホテルの再建を通して得た信念が、ここに息づいています。

 

香りの原材料となる夏みかんや柚子など、その生産者を地道に訪ねながら、自分も、顧客も、そして生産者も満足するプロダクトを追い求めます。安全性と質を追求すると、得てして効率は悪くなるもの。大量の原材料から出来上がりは微量、といったことが当たり前のように起こります。しかし効率を求めれば、誰かが泣いてしまうかも知れない。梶川氏は、決して妥協しません。

 

「大量の柚子から最終的に出来上がるオイルは、ほんの僅かです。コストがかかり、製品になったときの値段も高い。しかしその現場を実際に見たとき、それでも高いと思えるかどうかなんです。これだけの柚子から、これだけのものしか採れないのかと、実感していただく機会があればいいと考えています」

 

効率を追い求めることによって忘れられたり、廃れてしまったもの。それらにもう一度スポットライトを当て、丁寧に掬い上げる。これがALL THAT SPAを特徴付けている、ひとつの姿勢です。

 

 

 

・経済にとって、そして人間にとって・

 

梶川氏にとって「経済」の面から見たスパ事業は、ツーリズムの牽引役。そのスパを目的にし、旅行客が訪ねてくる。(Bathの語源にもなった)英国のバースという街は、まさにその方法論で街のブランド力を高めている一例です。

 

そして人間にとっては、来るべき「100年人生」の時代を健康に生きるため、ライフスタイルの一端を担うのがスパなのだといいます。ツーリズムの主目的として挙げられる「健康長寿」。保養の一環として、身体的にも精神的にも、スパが提供できるリラクゼーションには大きな存在感があります。

 

そうした二面性を両立しているスパ。梶川氏にとっても、スパ事業は仕事でありながら、生き方そのものだと断言します。兼ねてからひとりの「ユーザー」として愛していたスパという存在に「職業」として関わる現在を、かつては想像することができなかったといいます。それでも、スパが自らの職業になっている今、「これが私の人生そのものだと思っています」と梶川氏。

 

これまで60年、70年というスパンを基礎にして考えられていた、私たちの人生と社会制度。これが100年となる時代が間近に迫っています。これまで主流だった職業と生き方を分ける人生観では、40年近く残される定年後をどのように生きてゆけばいいのでしょうか。職業と生き方とを「人生」として束ね、生涯現役の時代を健康に生きる。そのための示唆を梶川氏から受けた思いです。

 

 

 

 

 

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