研究会ブログ

2014年07月25日 Fri. Jul. 25. 2014

文化経済2014.7月講演レポート①/奥山清行氏

第72回文化経済研究会のセミナーレポートをお届けします。

講師は、工業デザイナー、奥山 清行氏。

並びに株式会社文化事業部  代表取締役 セーラ・マリ・カミングス 氏。

 

テーマは「世界目線によるイノベーション」。両氏とも、欧米のエッセンスを日本に持ち込んでそれぞれの場所で大きな挑戦を成し遂げられました。

 

まず第一部は奥山氏。

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 米ゼネラルモーターズ、独ポルシェを経て、伊ピニンファリーナ社デザインディレクターを務め、フェラーリ、マセラティなど自動車を始め数多くのデザインを手掛けられましたが、現在は寧ろ地域社会や農業など、日本に根付くコミュニティを大事にした活動をされています。

 

「国が頑張って農業を強化しようとしていますが、兼業農家の年収はきわめて低い。私は兼業農家の孫なのでよく分かります。

あるお父さんが農業をやってみようと家族に提案したら大反対されたそうです」

「じゃあどうするか?子どもを味方につけてしまえばいいんです。子どもが見て『カッコいい!』と思えるようなトラクターをデザインすればいい。

イタリアの赤い車をデザインしてた奴が赤いトラクターデザインしたよだの何だの言われましたけどね、何とでも言えって感じですよ。踊って欲しけりゃ踊る」

 

氏の講演はイタリア在住期間が長いこともあってか洗練されていて、砕けて言えば「カッコいい」印象を受けました。

大勢の聴講者を目の前にして、台詞一つ一つが心憎い。

未来への構想を描くためには、それに賛同してくれる人を募るのも大事な要素のひとつ。氏の「カッコよさ」は社会的なミッションを実現するために自然と身に付いた武器なのでしょうか。

 

「商品や会社ではなく、業界を作らないといけない。

兼業農家の人に500万のトラクター売りつけてもしょうがないんですよ。

だから業界の認識そのものを変えていかなければならない」

「デザイナーにとって大事なのはストーリーです。

山形の特産品は紅花なんですが、実は咲いている時にはまだ黄色い。それが加工されて赤い染料になる。その茎はとても鋭いとげに覆われていて、手袋をしていようが手が血まみれになる。黄色い花は命を削って赤くなるんです。

そのストーリーをデザインを任された新幹線で表現したくて、グラデュエーションを使おうと思った。しかし大反対でした。グラデュエーションの塗装ではとても新幹線の速度に耐えられない、と」

「しかし、このストーリーを聞いたJR東日本利府工場の人たちが6人チームを編成して、これに協力してくれたんです。どうしたか?手塗りですよ。非常にめんどくさい。しかし彼らは、彼ら以外の人間でもそれができるようにしっかりしたやり方まで作ってくれたんです」


氏にとってデザインとは最終的に商品の造形を定める作業ではなく、ある商品の構想の段階から、最終的にそれどのような形で生活者に訴求していくかまでを考える仕事です。単なるフィニッシュワーカーとしてのデザイナーとは真逆で、社会全体を眺める俯瞰的な視座が求められます。

 

後編は次回へつづきます。

 

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