研究会ブログ

2015年04月10日 Fri. Apr. 10. 2015

『Mart』編集長 大給近憲氏の語る主婦意識の移り変わり

2013年7月、第66回文化経済研究会で講師としてご登壇いただきました大給近憲氏。雑誌『Mart』の編集長で、食べるラー油、洗濯用の香りつき柔軟剤、ホームベーカリーなど多くのブームを作ってこられました。

東洋経済オンラインにロングインタビューが掲載されていましたのでご紹介します。

 

まず主婦層の意識の変化に敏感に向き合われている大給氏ならではの考察を引用します。

 

「創刊当時は、「LE CREUSET(ル・クルーゼ)」とか、「Downy(ダウニー)」とか、ものの情報そのものが注目される傾向があったんですね。ところが今は、ものを提供するということだけでは、満足してもらえない。それだけでなく、「なぜ私たちにそれを提案するのか」「なぜ私たちにそれが必要なのか」といったバックグラウンド的なところからしっかり知りたがっているという感じを受けます」

 

大事なのはある商品がどのような効果効能があるのかよりも、果たしてそれが自分にあっているのか。もっと言えば自分のライフスタイルにあっているのか、ということなのだと思います。

それが非常に端的に分かる以下の例を文化経済研究会でお話いただきました。

 

「“ニンニク”というと好きではない人がいるんですが、“ガーリック”というとOKな人がいるんです」

 

会場は大笑いでしたが、同時にモノの情報ではなくバックグラウンドが大事であるということに、その例えによって非常に納得されていました。

同じものでもバックグラウンドやストーリーの違いで売れ行きや人気が全く違ってくることは別に驚くことではありませんが、同じ野菜を英語で呼んだだけで態度が180度変わってくる。仕掛ける側のアイデア次第でブームは起こせるものなんですね。

 

また、「お茶をしている時に普通に話す話題がほしい」という傾向が最近の主婦の方はあるそうです。

どういうことかと言うと、

 

「LINEのネタはあります。Facebookのネタはあります。そうではなくて、“お茶をしている時に普通に話す話題がほしい”」

「(Facebookに乗せるような)プレゼン的な話題ではなくて、こんな話って楽しいよねと純粋に友達同士で楽しめる話題」

 

それが今求められている、というのが大給氏が読者からの声で知ったことだそうです。

 

主婦の方々といえば、お茶を飲みながらの話題なんて無限に湧き出てくるようなイメージがあったのですが、

SNSの普及によってその主婦の方々ですら対面的なコミュニケーションに揺らぎを感じているのかもしれません。

 

大給氏はSNSでの話題を「プレゼン的」という言葉で表わしていますが、これが非常に言い得て妙。Facebookでは一対多数のコミュニケーションが当たり前で、それはまさに「プレゼン」です。

そういった発信に日々晒されていると、常に自分がある話題によってどう楽しむかよりも、相手にどう見られているかを気にしなければならないという非常にストレスフルな状態に置かれてしまいそうです。

 

雑誌というのはトレンド情報をキャッチするものか、よりライフスタイルに根ざした特集に重点を置くのかに分かれると思います。

『Mart』は正に後者の雑誌で、大事なのはトレンドのファッションを身につけるよりも、「どうしてそれが“私に”必要なのか」ということ。

 

あまりにも性急な情報が矢継ぎ早に飛んでくるネットを前に、雑誌や雑貨店などのリアルな媒体は表層的な情報よりもより人生全体に根ざしたストーリーが必要とされているのでしょうか。

最近ライフスタイル提案型の雑貨店が増えていますが、この傾向がますます強くなっているのかもしれません。

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