研究会ブログ

2016年11月 4日 Fri. Nov. 04. 2016

モード誌に毒を 『Numero Tokyo』田中杏子編集長の哲学

先日、今月の文化経済研究会でご講演いただく『Numero Tokyo』の田中杏子編集長との打ち合わせにお伺いしてきました。改めてその編集コンセプトについてご紹介してます。

 

■脳に傷を残す

創刊当初から掲げているのは、「毒抜きされたモード誌はいらない」というコンセプト。

ファッションを表す時に、「エッジの効いた」「インパクトのある」「キャッチーな」などの形容詞が多く使われますが、田中編集長はそれらをまとめてよりインパクトのある言葉として「毒」を用い、それを誌面において具現化されています。

 

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例えばこの表紙写真ですが、カタログ的なビジュアルとはかけ離れ、色彩のコントラストが強く打ち出されています。

もちろん、毒とは単に写真がサイケデリックという意味ではありません。

 

インターネットの登場によってもはやファッション誌はファッション情報を最速で伝えるということの意義を失ってしまいました。

そこで、最新のファッションを報道するだけではなく、受け手の心にしっかりと食い込み、その後のライフスタイルにまで影響を及ぼしてしまうような見せ方を模索し、「毒」という言葉に込められました。

田中編集長は「脳に傷を遺す」という言葉でもこのコンセプトを言い換えていました。こちらもなかなか「毒」の効いた表現で田中編集長ご自身のライフスタイルとして常に一捻りを加えた「毒」が行き渡っているのかもしれません。

 

■毒ロマとノームコア

ファッション関係者でなくても今年様々な場面で「毒ロマンティック」というトレンドキーワードを目にされた方は多いのではないでしょうか。

2016年ファッションの一大テーマとも言える「毒ロマ」、実はヌメロ編集部が仕掛けた言葉だったんです。

2014年〜2015年にかけて猛威を振るった「ノームコア」。

ファッショントレンドを追うのは止め、シンプルな衣服を好んで内面を充実させるというスタイルを指しますが、その反動としてインパクトがあり、ワクワクするようなスタイルを定義付けられないかと生み出されたのが「毒ロマ」です。

 

とは言え、よくよく考えればシンプルな服を好む「ノームコア」も、スパイシーなファッションを好む「毒ロマ」もそういう派閥はそれらの言葉が生まれるはるか以前から存在していました。

ファッショントレンドとして認識されるようになったのは、やはりそれらに「名前」が与えられてしかもその名前が市場というオーディエンスに受け入れられたという要因が大きいと言えるでしょう。

 

既にある現象に「名前」を与え、それがオーディエンスに受け入れられることで新たな現象を引き起こす。

これ、先週の記事でご紹介した社会学者の役割とかなり被っています。

社会学者も編集者も言葉を用いて、現状をいかに上手く説明するかということがその本分だと考えれば、共通する性格も多々あるのかもしれません。

世の中を変えてしまう「伝え方」のプロフェッショナルである古市氏と田中編集長のお話は社会における言葉の意味を深掘りしてくれることと思います。

是非お越しください。

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