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2017年06月 2日 Fri. Jun. 02. 2017

池坊専好氏 矢嶋孝敏氏 共著『いけばなときもの』


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池坊専好 矢嶋孝敏 共著『いけばなときもの』

三賢社 刊

1380円(税別)

 

 

新刊『いけばなときもの』をご紹介いたします。本書は文化経済研究会会員の矢嶋孝敏氏と池坊専好氏による、対談形式の共著になります。

 

矢嶋氏は株式会社やまとの会長として、日本のきもの文化と伝統を継承し、かつその制約に縛られない新しい「きもの像」の創造に取り組んでこられました。

 

また、池坊氏は555年続く華道家元「池坊」の次期家元として、いけばなを通し、国内外を問わず広くご活躍されています。弊社発行の「構想の庭 Vol.3」にもご登場いただきました。

 

言わば日本の伝統文化を担うお二方。「数少なきは心深し」「余白を生かす」「心地よいアンバランス」、それらのワードに表せられた日本の美意識を、お二人が語り合います。

 

 

・「もてなし」の本質とは・

 

「いけばな、お茶、きものなど、日本の伝統文化に共通したコンテンツは『もてなし』である」と矢嶋氏。それは言い換えるならば、「自分の気持ちを相手のところに持っていく姿勢」だといいます。あくまでも主体は相手。自分を相手に添わせ、心を配ることこそが本来の「もてなし」。ところが、オリンピック招致のプレゼンテーション以来、その本質が変質してしまったように感じているのだそうです。「もてなし」が「お・も・て・な・し」に、相手主体のコミュニケーションだった「もてなし」が、まるで「自分プレゼン」のようになってはいないか、矢嶋氏はそのように警鐘を鳴らします。私はあなたを思ってこれだけのことをやっています、というのは欧米的な自分主張の発想。それは自分の気持ちに気づいてもらえないという恐怖心から来るのかも知れません。本来的な「もてなし」を為す根底には、相手に添うだけの心の余裕と、過剰ではないけれども確固たる自信がなければならないということでしょう。

 

池坊氏も、「本来、日本のおもてなしは、気づかれないように相手に心配りするさりげなさが必要であって、これ見よがしではなかったと思うんです。受け取る側が『もしかしてそうなのかな?』と想像するくらいがちょうどいい」と語ります。

 

 

・伝統文化と今らしさ・

 

いけばなときもの。その成立からしばらくは特権階級の嗜みだった両者ですが、それぞれ概ね江戸時代中期ごろから、町人の日常にまでその裾野が広がります。ところが現代に至るにつれ、両者はまた、人々の日常から少し遠いものになってしまいます。

しかし興味深いことに、若い世代の間では伝統文化への関心が高まっているのだそうです。その親の世代といえば、ちょうど海外文化への憧れを持ちながら育った世代。伝統文化へ接する機会が少ないままに育てられたことで、却ってそれらへの「妙な身構え」がないことが一因。いけばなもきものも、先入観なく「格好良い」と感じる若者が、いけばな教室に足を運んだり、きものを購入するケースが増えています。

 

その流れが特に顕著になったのが、3.11以後。大震災を経て、自分のこと、そして自分が生まれた国のことを見つめ直す若者が明確に増えたと、両氏は語ります。ただし、そこには「今らしい」エッセンスもあるそうで、例えばきものであれば手頃な価格のものを複数揃えるといったように、「洋服を選ぶ感覚」が特徴。いけばなにおいても、銅や青銅の器以外にもアクリルなどの現代的な素材が使われる機会が多くなっています。

 

 

・もっと身近に・

 

家元池坊では「Ikenobo 花の甲子園」と題し、高校生を対象としたいけばなの全国大会をこれまでに8回開催。一方の株式会社やまとでも、ワンコインきものレッスンを開催し、毎年延べ2万人が参加。両氏は伝統文化をもっと身近な「生活文化」にするための運動に取り組んでいます。

 

敷居を低く、裾野を広く。伝統を継承し尊重すると同時に、今とこれからを見つめ、変化する。そうしたお二人の「強い柔らかさ」が衒いなく収められた一冊でした。








 

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