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2017年07月28日 Fri. Jul. 28. 2017

次回9月セミナー講師、新井和宏氏著書『持続可能な資本主義』

  

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9月14日(木)開催、第91回文化経済研究会にてゲストとしてお迎えします、鎌倉投信株式会社取締役 新井和宏氏の著書『持続可能な資本主義』をご紹介いたします。

 

新井氏は1968年生まれ。東京理科大学を卒業後、大手信託銀行に入社。多岐にわたる運用業務の中で数兆円を動かすなど、ファンドマネジャーとして活躍。しかし自らの大病、そしてリーマン・ショックが大きな転機となり、自身がそれまで信奉してきた「数式に則った投資」「金融工学」、そして「金融市場」そのものへ対して疑義を抱くようになります。

 

2008年11月、志を同じくする仲間4人と鎌倉投信株式会社を創業。10年より運用を開始した同社の信託は、次なる世紀“2101年”に向け、人と人、世代と世代を“結ぶ”という願いを込めて、「結い2101」と命名。新井氏はその運用責任者として活躍されています。

 

 

 

・分断が生み出してしまった破綻・

 

一般的な投資信託が目指すのは、如何に経済的なリターンを大きくするか、その一点に尽きるのではないでしょうか。出資者は効率的に資産を増やすことが目的であり、信託の運用者は出資者の資産を守りながら、どのようにしてそれを増やすかを主目的とします。その際に重視されるのは、専ら経済的な指標です。

 

高度な金融工学を駆使することで成り立ってきたこれまでの資本主義。08年に起きたリーマン・ショックは、金融工学、そして経済的指標によって効率性を追い求めた経済が、如何に危ういものであるかを我々に示しました。新井氏によれば、

 

「高度な金融工学があったからこそ、リーマン・ショックは起こってしまったのです。」(32頁より引用)

 

リーマン・ショックの根本的な原因は、お金の出し手と受け手が分断されたことにあるといいます。事の発端となったサブプライムローンは、債権を極限まで分割し、つなぎ合わせることで生み出された証券です。これでは誰が誰に対して投資をしているのか、全くわかりません。

 

「お金を出すほうは、どう使われようと儲かればいい、と思う。お金を受け取るほうも、出し手の顔が見えませんから、受け取れるだけもらってしまえということになる。」(32頁より引用)

 

顔が見えないことによって、それぞれが自分の利益だけを効率的に追求する。そこから生み出されるのは、投機によってひたすら金融が膨張するだけのバブルと、破綻する未来でした。

 

 

 

・「リターン」の定義に挑む・

 

「ではなぜ、金融は無限に効率を追求しないといけなかったのでしょうか? それは『リターン=お金』と定義されているからです。お金をリターンと考える限り、ゴールは無限となり、どこまでも効率的に稼ぐ方法を探さなければならなくなってしまう。」(37頁より引用)

 

仲間4人と鎌倉投信を創業した新井氏は、この根本的問題を解消する必要性を強く認識していました。その上で鎌倉投信が提示した新たなリターンの定義が「リターン=資産の形成×社会の形成×心の形成=幸せ」というもの。この新しいリターンの定義を具現化した金融商品が「結い2101」でした。

 

年率5%を目標とし、過度な利益率は求めない。そして経済的な指標のみに依存するのではなく、投資先となる企業の社会性を大きく重視する。社会性を伴った企業のことを、鎌倉投信は「いい会社」と呼びます。社会から必要とされる企業に投資することによって、

 

「自分が投じたお金が、『いい会社』を通じて社会の役に立っている。そして『いい会社』」が成長し、社会が豊かになれば、受益者※の心も豊かになる。これが『社会の形成』『心の形成』の意味するところです」(39頁より引用)※一般的に投資信託の顧客は「受益者」と呼ばれる。

 

これらのプロセスで「幸せ」というリターンを還元すること、これこそが鎌倉投信の目指す地点です。

 

 

 

・社会性を重視する「革新性」・

 

現在の経済システムの中で「資産の形成」と「社会の形成」を両立することは極めて難しいというのがこれまでのセオリー。リターンの定義に「社会の形成」を織り込んだ鎌倉投信の姿勢には、現在の資本主義において大きな意味と革新性があります。

 

分断が経済の破綻を生み出してしまったのであれば、もう一度、顔と顔が見える状況を取り戻す。それはあたかも、かつての銀行が丁寧に企業を訪問し、話し合い、信頼できる相手に融資していた姿を思い起こさせます。効率追求型の「短期・分断」の金融から、社会性を重視する「長期・信頼」の金融へのシフトを、鎌倉投信は標榜します。

 

新井氏は年の半分以上を企業行脚に充て、企業側との対話を繰り返してきました。その上で投資先を決定し、また、出資者とそれを受けた企業とが直接顔を合わせるための訪問事業を積極的に行なっています。こうした地道な活動こそが、「長期・信頼」の金融の実現に不可欠であるということでしょう。

 

長期、信頼、いい会社。こういった単語が並んだとき、一見して綺麗事、絵空事のような感覚を覚えるかも知れません。ところが、経済性と社会性を両立する「いい会社」への長期投資は、一つの選択肢として定着しつつあるそうです。

 

「結い2101」の運用が始まった2010年に約3億円だった資産総額は、2016年には248億円超。6年で実に80倍の増加を見せています。2014年の「R&Iファンド大賞2013」では「結い2101」が投資信託・国内株式部門で1位になるなるなど、運用実績も高く評価されました。

 

「つまり『いい会社』だけに投資する投資信託が、日本一になってしまったのです。それは、とりもなおさず『いい会社』が、この時代に必要とされていることを意味しています。」(7頁より引用)

 

これまでの金融の常識を覆しながら躍進する鎌倉投信。人々が100年の人生を生きる時代において、今後一層問われるのは持続性です。今回のセミナー(9月14日開催)では、数式というセオリーを乗り越え、共感によって経済が成立することを示し続ける新井氏から、新たな時代における経済の指針を学びます。

 

 

 

 

 

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