研究会ブログ

2016年06月24日 Fri. Jun. 24. 2016

村上隆氏著書『創造力なき日本』

村上隆氏著書『創造力なき日本』をご紹介します。


代表著書である『芸術起業論』では、怒りこそがアーティストのエネルギーであるとありましたが、本書もかなり「怒って」います。

タイトルからして日本への不満をぶつけるものになっており、創造やアートという現場から村上氏が発する「怒りの書」であると言えます。


■アーティストは社会の最下層

「アーティストは、社会のヒエラルキーの中では最下層に位置する存在である。その自覚がなければこの世界ではやっていけない」


いきなりこれです。

アートや芸術は自由なものであり、アーティストは社会から尊敬と憧れを受ける存在なのだというなんとなく共有されている前提を真っ向から否定。

そんな甘いことを言っているから、日本人は世界のアート市場で戦えないんだと言わんばかりの勢いで日本のアートを取り巻く状況を批判します。

大学で教えられるのはアート市場で生き残るための戦略ではない。自らの描きたいものを描くのではなく、「まず相手ありきのビジネス」であるという大前提を分かってからではないと、根本的な勘違いをしたまま芸術の海深くに沈んでいくことになります。


■挨拶は筆よりも重い

村上氏が率いる有限会社カイカイキキではとにかく「挨拶」を徹底させています。

その厳しさは体育会系の部活や軍隊並で、新人に対して施すのは絵の訓練ではなく、挨拶の訓練だそう。

美術畑でずっと生きてきた人が、いきなり大声で挨拶の練習をさせられるというのはかなり衝撃的なことだと思います。

当然、最初はなかなか大きな声で挨拶ができずにまた村上氏に怒られるそうですが、これは挨拶を通じて自分が社会の中で他者とつながりを持って生きているのだということを認識させるためなのだそう。

「絵が下手でも、挨拶の練習をしたほうがずっと有効」

と村上氏。

芸術という行為でお金を稼がなければならないと考えたときに、集団行動の基本である挨拶の練習をさせるというのは確かにかなり効果的なことのように思えます。


■怒りと理不尽が生む芸術

「僕は理由も無く怒ることがある」

という村上氏。

理不尽な怒りを若手にぶつけることによって、芸術という一般社会とは違う理不尽な世界に自分は居るのだと認識させるのがその目的なのだそう。

村上氏曰く、アーティストにとって必要なものが怒りです。

理不尽な怒りをぶつけられた若手の方も何らかの形で怒ることになるでしょう。

それは新たなアーティストを育てることになります。

しかし、村上氏はそれをことさら強調しません。若手を育てるためにあえて怒っている、そう言えば確かに聴こえはいいのですが、カイカイキキを去る人の数も少なくはありません。

その中であくまで村上隆という一人の流儀に従い、その思考と考えを咀嚼することを求めます。

理不尽さと怒りが渦巻く中で芸術が生まれる。

少なくとも、村上氏の世界において芸術とはそういうものです。

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