囲み枠(上)
谷口正和 プロフィール

RSS

2009年11月30日

肖像。

hiranosyouzou1psd.jpg

1人の人間にひとつの「肖像」がある。

人生の歴史と成し遂げたことを背負って、そこに立っている。

『グラフィックデザイナーの肖像』(新潮社)という本を、

グラフィックデザイナーの平野敬子氏よりお送りいただいた。

平野氏が企画・立案し、株式会社竹尾がプロデュースした

公開インタビューをまとめたものである。

杉浦康平(以下敬称略)、原研哉、永井一正、早川良雄、松永真など、

日本のグラフィックアートの歴史を形作ってきたプロフェッショナルたちが登場する。

今最前線で活躍するデザイナーたちが公開の場で

質問する形式を取っている。

 

きちんと書籍にしておくことの大切さを、今回も教えられた。

肖像の中に哲学も美意識も伝達すべき思想もすべてある。

2009年11月30日

出版者の魂。

edi1.jpg


武蔵野美術大学の同級生である松本八郎氏からEDI叢書をお送りいただいた。

同氏は誠文堂新光社のチーフエディターをながらく務められた後、

EDIという出版社を立ち上げられた。

EDI叢書というシリーズを刊行しており、

一言で言えば、明治・大正・昭和の忘れられた作家たちの作品を、

まるで雪の中から生きている芽を掘り出すように、その仕事を紹介している。

文字に刻印された人間の生き方は、はるか時間を越えて、私たちに呼びかけてくる。

出版者の魂が、それらを掘り起こしているのだ。

歴史は記録されるから後に残る。

本という人間が生み出した記録メディアに感謝するばかりである。

 

edi2.jpg

 

2009年11月26日

建築とエコ。

sekisuieco1.jpg


日本で使われている木材の80%は、

海外で伐採され、輸入されたものだという。

わが国の木材自給率は20%ということだ。

食料自給率どころではない。

 

私の立命館大学の教え子の1人、積水ハウスの平賀健治君が、

積水ハウスのカレンダーを送ってくれた。

「世界のエコ建築100」というタイトルで、箱の中に筒状で入っていた。

 

日本の森林率は66・4%。

先進国ではフィンランドの68・1%に続いて世界2位である。

ちなみに北アメリカ37.4%、ヨーロッパ32.5%、中国18.2%だ。

伐採しなかったからこそ日本は森林国になれたのであろうが、

いまや木材は世界の共有財産である。

建築にエコを取り込むということは、木材の使用をいかに抑えるかとイコールだ。

建築会社には、ぜひがんばってもらいたい。

sekisuieco2.jpg

2009年11月19日

島の国、港の文化。

minatomachi.jpg


日本は東の果てにある島国である。

だから、基本的に、周囲を海で囲まれてる。

陸路を渡って、違う文化と行き来するとはできないのだ。

当然のことながら、重要になってくるのは、その往来の拠点になる「港」である。

港とは「水門(みなと)」であるらしく、みごとに字が意味を表している。

 

都市再生機構の西日本支社福支社長を務められている小林一氏から、

同氏が編集協力している『港町から』(街から舎)

という冊子をお送りいただいた。

港町のタウン・マガジンシリーズの刊行第3号ということで、

今回は「敦賀」の特集である。

敦賀市(つるがし)は、福井県南部の敦賀湾に面する都市である。

古代より港湾として栄えた。

文化は奥行きで語られる時代である。

文化は自ずから深みへと達していき、

いつか他者が追いつかないレベルにまで行き着くのだ。

文化と歴史は、時間というフックによって、ほぼ一心同体なのである。

 

特に港町は日本文化の歴史を検証する上で、

欠かすことができないポイントだろう。

海彦山彦の時代から、日本人は海と森を頼りに生きてきたのだ。

港町の文化と歴史を調べれば、その地方の文化と歴史が分かる。

そう言っても過言ではない。

その意味から、この『港町から』という冊子の持つ意味は大きいだろう。

 

2009年11月16日

シティツーリズムの時代。

  1. urban.jpg


私が近年提唱している概念に「シティツーリズム」がある。

先進国では70%以上の人が都市で生活をし、

都市の生活文化の集合集積が高まっている。

世界的に見ても、新たな都市観光が観光の最大の要素になり、

商業もアートも、都市に集積することによってシナジーを形成し、

さらに都市文化を壮大なものにしている。

 

いま開催されている「TOKYO URBAN LIFE2009」

というシンポジウムにおいて、私も一講座を担当している。

11月19日(木)19時~20時、

東京ミッドタウン・カンファレンスルーム9において、

「シティツーリズムの時代」というタイトルで講演させていただく。

内容は

①ライフスタイルツーリズムの魅力

②ショッパーズツーリズム~東アジア、特に中国からの商業観光と

ジャパンブランドについて

③エンタテイメントツーリズム~スポーツ、アート、デザインなどの

エキシビションとカーニバルについて、である。

 

新しい時代の認識共有として、

よろしければおいでいただきたいと思って紹介させていただいた。

参加費は2,500円です。

 

2009年11月16日

自己否定の力学。

cup.jpg


日清ホールディングスCEOの安藤宏基氏が、

自社をモデルケースとして、ビジネス書をお出しになった。

あえてビジネス書といったのは、

コンテンツにビジネスに役立つ普遍的なものを含んでいるからである。

 

ご存じの通り、日清食品はインスタントラーメンの開拓者であり、

カップヌードルという世界食品史から見ても

画期的な食品を世界に送り出した会社である。

カップヌードル以前と以後に分けて考えられるくらいの「大事件」だった。

本書は「カップヌードルをぶっつぶせ!」(中央公論新社)という過激なタイトルである。

その心は、あまりにも偉大な創業者の後を継ぐ二代目社長の心意気を表している。

カップヌードルが霞むくらいの画期的な商品を開発しようということだ。

 

元常務の筒井之隆氏からお送りいただいた。

本書完成にはたぶん、氏のお力も大きかったろう。

 

その自己否定の力学に、一読、勇気が湧いてくる本だ。

2009年11月13日

死と生を越えて。

ichijyounamida.jpg

 

近年、静かに注目されつつある学問に「死生学」がある。

thanatology(タナトロジー)である。

エロスとタナトスという概念があるが、

前者は生への欲動、後者は死への同意である。

まさにいかに生きるかは、いかに死ぬかと一体、

タナトロジーの時代が来たといえるだろう。

死と対決する生ではなく、生と融合する死。

そう言ってもいいかもしれない。

 

一条真也氏は、冠婚葬祭業大手の社長である。

ただし職業だから生死を深く考えるのではなく、

氏の本質に、そのような哲学的洞察への深い関心があるのだろうと思う。

今回の著書『涙は世界で一番小さな海

~幸福と死を考える、大人の童話の読み方』(三五館)は、

この生死の本質を、4つの童話から導き出そうとしている。

『人魚姫』『マッチ売りの少女』『銀河鉄道の夜』『星の王子さま』である。

氏はこの4冊の著者、アンデルセン、メーテルリンク、宮沢賢治、

サン=テクジュペリを「4大聖人」と位置づけている。

確かにファンタジーやメルヘンが持つ普遍的な力は、

ある意味「もう一つの宗教」とも言えるものであり、

神話や古代伝説を見ればそれがよく分かる。

心の時代にさらに大きな影響を持つに違いない。

コンセプトもストーリーも、メルヘン、ファンタジーで語る時代である。

2009年11月12日

心の耳。

kokoromimi.jpg


人は心の生き物である。肉体はその入れ物に過ぎない。

だから、人が生きていく理由も、苦しむ理由も、

全て心という容器の中の問題なのだ。

人生に関する様々な悩み、問題を聞くサイト

「こころの耳」を、残間理江子氏が開設した。

 

日本では自殺者が11年連続して3万人を超えている。

自殺は心の容器が壊れてしまって、

心が流れ出してしまったということなのだろう。

それを塞き止めるサイトして、

残間氏の「こころの耳」が可動することを願う。

2009年11月12日

師と弟子。

mochizuki.jpg


多摩大の望月照彦教授のゼミが20年を迎えた。

この記念にとゼミ卒業生たちが、

「Hope Moon Anniversary~多摩大学望月ゼミ20年史」

というクロニクルを編纂した。

それが今回ご紹介する本である。

お手紙の中に「明治維新を支えたあの草莽の志士のように、

踏まれても踏まれても立ち上がってくる大きな志と

強靭な意志を持った人間が、望月ゼミの卒業生であって欲しい」とあったが、

望月教授の人格を鑑みれば、

そのような卒業生が多く巣立って行ったに違いない。

 

「塾」の時代である。

適塾の緒方洪庵は福沢諭吉を生み、

松下村塾の吉田松陰は高杉晋作を生んだ。

松下政経塾出身者の活躍はご存じの通りである。

望月教授も、また塾のようにゼミでご指導されてきたのだろう。

 私も立命館大学で教鞭をとっているが、共感するところ、多である。

 

歴史は永遠に「師と弟子」の連鎖によってつながっていく。

 

 

 

2009年11月10日

1人で生きる。

otoko.jpg


上野千鶴子氏から、新しい著書をお送りいただいた。

『男おひとりさま道』(法研)である。

もちろん彼女の大ベストセラー『おひとりさまの老後』の第2弾であろう。

今度は男性に的を絞って書かれた。

周辺を見回しても、男は誠に生活に不慣れである。

働くことはうまいが、暮らすことは下手なのだ。

そこは女性が一枚も二枚も上手である。

しかし、必ずしも、男性が先に逝くとは限らない。

男が1人で生きていくのは、

永井荷風ほどではないが、ある覚悟がいるだろう。

そのことをあらためて教えていただいた。

 

さて、今日も生きて働こう。

2009年11月 9日

エンドユーザー・イズ・エンドクリエイター。

tubame.jpg


つばめグリルのアトレ品川店内で、

最近の農ブームにタイミングを合わせた、小さな試みをやっていた。

素材のおすそ分けである。

「料理店が選んだ食材」というところがポイントである。

プロフェッショナル社会が到来しているが、

食こそプロフェッショナリティを求められる最大のカテゴリーだろう。

農家が急速に注目を集めているのも、

農家は食のプロフェッショナルだからだ。

料理店も同様、食のプロフェッショナルである。

 

顧客に素材を提供して、その作り方やノウハウを教えるのは、

これからの小売業の使命である。

顧客こそ、その素材を使って何かを作り出すクリエイターなのである。

ユニクロを使ってユニデコの時代である。

エンドユーザー・イズ・エンドクリエイターだ。

 

tubame1.JPG

 

 

2009年11月 4日

ポパイという店。

popeye1.JPG


自由が丘を休日にぶらぶらしていたら、面白い店に出会った。

「ポパイ」という名のカメラや屋さんである。

物を物として売っていたら、カメラのようなものはとても大手量販店に勝てない。

低価格と値引きの絨毯爆撃で終わりである。

 

この「ポパイ」という店は、カメラを情報売り、テーマ売りとして売っている。

カメラを大人の遊び、ゴッコとしてとらえているのだ。

 

帰宅して試みにホームページにアクセスしたら、

「北欧家具のようなアンティークブルーのカメラを作りました。

黒いカメラが主流のなか、

北欧家具のようなかわいいカラーをイメージして作りました」とか

「大正10年に創業した静岡の老舗お茶缶メーカーさんに

製造を依頼したポパイ缶」とか、

実に遊び心に満ちた商品が紹介されている。

 

専門店が生き延びるひとつの答えがここにある。

マスカスタマーを狙うな、テーマカスタマーを狙え、である。

マスの狭間に、このようなカメラを求めている人がたくさんいるのである。

テーマを決めたら奥深く、しかも遊び心いっぱいに。

ポパイさん、がんばってください。

 

2009年11月 2日

十年樹木、百年樹人。

matusita.jpg


松下政経塾が注目されている。

現在、閣僚のうち、8人が政経塾出身だそうである。

松下幸之助氏が、このままでは日本は駄目になると憂いて、

私財70億円を投じて設立された。

 

時代の激動期には、「塾」が力を発揮する。

技術や知識を教えるのではなく「人を育てる」のだ。

十年樹木、百年樹人だという。

十年の利益ならば樹を植えよ、

百年の利益ならば人を育てよ、ということだ。

 

かつての緒方洪庵の「適塾」、吉田松陰の「松下村塾」などを想起させる。

まさに百年樹人だった。

 

松下政経塾も、松下幸之助氏の百年樹人構想だったのだろう。

HOME