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谷口正和 プロフィール

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2011年5月31日

一生涯、一テーマ。

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田中宏昌氏は、本物の鉄道マンである。

若き日より国鉄、国連ESCAP(アジア太平洋経済社会委員会)、

東海旅客鉄道の要職を歴任し、

日本と世界の鉄道の発展に貢献してきた。

その田中氏が、国連ESCAP時代の最高の“相棒”の思い出とともに、

自らの鉄道人生を振り返ったのが本書

『「国連運輸部鉄道課」の不思議な人々』(ウェッジ)である。

生涯を一テーマで送ることができた人の喜びと誇りを肌で感じる思いだ。

経済評論家の森永卓郎氏が「AERA」4月18日号で書評を書いているが、

本当に「途上国を支援しようという著者の熱い思いが伝わってくる」。

2011年5月25日

温泉のチカラ。

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日本は有数の火山地帯であり、まさに温泉の国、地熱の国である。

温泉地の数は3,133箇所で、源泉数は28,033に上るという。

この豊かな温泉環境を、日本人は最高のエンターテインメントとして楽しんできた。

しかし、温泉を医学的な見地から追求する発想はあまりなかったろう。

よくて「湯治」という概念どまりである。


本書『温泉と健康』(岩波新書)は、

温泉気候医学者である阿岸祐幸氏によって書かれた、

温泉の医学的効果を説く本である。

主に予防医療の面から執筆されている。


私もかねがね、日本の温泉に、ヨーロッパのような

健康と医学的視点を取り入れるべきだと考えていた。

本書に出合って、わが意を得た思いである。

温泉治療士のような社会的資格があって当然ではないだろうか。

この点を開拓していけば、日本は東洋健康法の聖地となる可能性さえあるのだ。

私はブルーバード発想とよく言うが、

足元にこそ青い鳥はいるのであり、温泉はその最たるものと言えるだろう。

温泉のチカラを再発見したい。

2011年5月24日

カルチャー・リテイラー。

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中川政七商店は享保元年(1716)に創業した老舗である。

手紡ぎ手織りの麻織物を扱っている。

その十三代目、中川淳氏が2冊の本を送ってくれた。

『ブランドのはじめかた』、『奈良の小さな会社が表参道ヒルズに店を出すまでの道のり。』

(いずれも日経BP社)である。

 

老舗といわれる店は、単に伝統を墨守してきたわけではない。

「若きプラントハンター」でご紹介した西畠清順氏などに見られるように、

若い後継者が革新的な行動を起こすのである。

中川淳氏も同様、伝統の上に革新を起こそうとしている。

奈良や京都が持っている長い歴史と伝統は、

絶えず革新によって支えられてきたと言えるだろう。

そのコアにあるのは、商業を文化としてみる発想だろう。

本当の意味のベンチャースピリットに支えられた、

「カルチャー・リテイラー」なのだ。

2011年5月17日

グローバルキャリア。

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石倉洋子さんから、新しい著書をいただいた。

『グローバルキャリア』(東洋経済新報社)である。

石倉さんはご存じの通り、上智大学を卒業後、

アメリカでMBAを取得し、

マッキンゼー・アンド・カンパニーで日本の大企業のコンサルティングに従事。

2000年から一橋大学大学院にて教鞭をとり、

現在は慶應義塾大学大学院でメディアデザイン研究科の教授を務められている。

まさに彼女自身がグローバルキャリアそのものだ。

本書は若い世代の「ヤル気」に火をつけたいという願いから書かれた、

いわば石倉流モチベーションブックである。

優れたリーダーは誰でもモチベーターであるが、

石倉さん自身がその優れたモチベーターだ。

私も示唆されるところが多かった。

石倉さんの今後のご活躍をお祈りする。

2011年5月16日

セカイ・ビジネス。

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最も世界化されたビジネスの一つに、ファッションがあるだろう。

それはマネー経済と同じくらいグローバルな存在だ。

ただし前者は文化の産物そのものであり、

後者は欲望の産物だと言ってもいい。

ESMODは今年170周年を迎える、

パリ発の世界14カ国21校のネットワークを持つ、

世界で最初にできたファッションデザイナー(服飾)教育専門の学校だ。

「世界に通用する<精鋭>デザイナーの育成」をコンセプトに、

多彩な活動を行っている。

 

エスモードジャポンの理事長、仁野覚氏は

私の古くからの友人であり、今もアドバイスを交換する仲だ。

感性とセンスがビジネスの最前線に出てきた21世紀、

ファッションの果たす役割は大きい。

重要なポイントは、それがライフスタイルの中にあり、

センスの道具であるという認識だろう。

 

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2011年5月13日

空間のマジシャン。

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視覚とは不思議なものである。

そのように見えているものが、実際にそうであるかは、

視覚だけでは判断できない。

道にごろりと大きな岩が転がっていても、

それが岩であるかどうかは、そばに行って押してみるしかない。

中ががらんどうの風袋かもしれないのである。

壁にドアがあっても、それはギミックとしての“絵のドア”かも知れない。

逆に言えば、見えているものが“実態”なのである。

人間は、そのように視覚を錯覚化して遊んできた。

 

相羽高徳氏はこの視覚のトリックで空間を構成して見せる名人である。

新横浜ラーメン博物館、NINJA AKASAKA/KYOTOなどの名前を聞けば、

相羽氏の空間デザインの妙を納得いただけるだろう。

 

氏の近著『東京妙案~「人が賑わう空間」を創る発想力の秘密』

(日本経済新聞出版社)で、その秘密の一端に触れることができる。

まさに色即是空、空即是色。あると思えばない、ないと思えばある。

バーチャルとリアルの行ったり来たりだ。

情報の時代の稀代のマジシャン、それが相羽高徳氏だ。

 

2011年5月12日

羅針盤の針は・・・

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『モスバーガーを創った男の物語~羅針盤の針は夢に向け』

(東海新報社)という本を送りいただいた。

モスバーガーの創始者、櫻田慧氏の生涯を綴った評伝である。

櫻田氏を終生忘れることができない師と仰ぐ木下茂喜氏の手になる。

 

櫻田氏には生前、よく私もお目にかかった。

デイリーライフスタイルの視点から食の基盤を

日本にもたらした経営者の1人である。

 

ドリーム・マーケティングという視座で見れば、そのエンジンはパッションである。

ご存じの通りMVPというキーワードがあるが、

それはミッション、ヴィジョン、そしてパッションである。

なかでも最後のパッション、つまり情熱ほど大切なものはないだろう。

他を圧するくらいの情熱があれば、

どんな事業も必ず成功すると言っていいくらいだ。

 

若き日の福沢諭吉は、ある日久しぶりに布団で寝ようと思ったら、

布団がないのに気がついたそうである。

寝食を忘れて学問に励み続けた結果、

布団で寝たことがなかったのである。

 

どのような人も、異常なほどの情熱家でなければ、

世に名をなすことはできないのだ。

櫻田慧氏も、また稀代の情熱家であった。

羅針盤の針は、いつも夢を向いていたのである。

2011年5月10日

論客。

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江坂彰氏は広告代理店・東急エージェンシーの私の先輩である。

経済評論家という肩書きが一般的だろうが、

そのような狭い枠組みを超えたオピニオンリーダーである。

氏の視点には、常に文明論が背景にある。

本書『新・和魂和才』(NTT出版)には、

氏のそのような特性が色濃く現れている。

パクス・アメリカーナ、つまりアメリカの一極支配は

すでに下り坂から終焉へと向かいつつあり、

世界は成熟した多様化へとパラダイムシフトしていると説く。

日本は「新」日本文化の時代に入るという。

特に参謀の役割が大きくなるだろうと予測する。

まさに江坂氏のようなポジションを「論客」と言うべきだろう。

論客の存在はますます重要になる。

構想力の時代は、論客のディスカッションこそ

明日を示唆する先行モデルになるのだから。

江坂氏のますますの論陣を期待したい。

2011年5月 9日

若きプラントハンター。

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西畠清順(にしはたけせいじゅん)氏をご紹介する。

明治元年から続く植物卸問屋「株式会社 花宇」の若き五代目である。

きものサミットin十日町にパネリストとして参加したが、

そこでお会いした。

世界中を飛び回り、日本にはまだ入ってきていない

珍しい植物を追い求めている。

商人であり、植物学者であり、冒険家と言っていい。

カルチャー・リテイラーとでも呼べばよいだろうか。

その選択眼も国際的に高い評価を得ているようだ。

 

植物は動物を超える長い生命を保ち、

その分布の範囲も海底から高山へと及んでいる。

地球上の生命チャンピオンとも言える存在だ。

そのカタチも実に奇抜なものがあリ、花の色彩力とデザインは、

接近してみれば見れば見るほど、精緻な造詣に驚かされる。

 

西畠氏が追い求めているものは、

たぶん植物の底知れない生命美に違いない。

本書『プラントハンター~命を懸けて花を追う』(徳間書店)をお薦めしたい。

2011年5月 2日

ビジットデザイニング。

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今回の大震災で、被害地の復興に何が必要だろうか。

それは私たちが東北のお客になるということではないだろうか。

東北の産物を買い、訪問可能になったところから足を運び、励まし、手伝う。

これはボランティア・ツーリズムとでも言うべき、

新しい観光を生み出すだろう。

その願いも込めて、『ビジットデザイニング』という本を著した。

 

『ビジットデザイニング』とは「訪問に値する価値の創造」である。

本書は私の新しい著書で当社出版のライフデザインブックスの刊行である。

移動することが当たり前になったツーリズムの時代に、

必要なのは、わざわざそこへ出かけてみたいという、

ツーリズム・コンテンツの開発だ。

重要なのは「いつ?」という時の開発で、

いかに時が重要な「訪問に値する価値」かは、お花見をみれば明らかだ。

わずか2週間くらいの開花期に合わせて、

人がドッと移動するのである。

 

「世界は観光を軸足にして強く交流を求める時代に入ってきた。

<私の聖地>を訪れたいという願いは

、人々の強い移動エンジンを形成する。

ではそこへは「いつ」行けばいいか。

どうしてもそこへ行きたい願望を引っ張る

「訪問に値する価値」は何なのか。

ビジットデザイニングは、単なるディストネーションを超えて、

新しい移動の意味と価値を作り出す戦略である。

われわれはこの全体像をプログラムし、デザインし、、

新しい時の過ごし方として再提示する必要がある。

本書はそのコンセプト理解のために書かれた」というのが趣旨である。

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