この書籍は東日本大震災以降に発売された本ではなく、
今から9年前に書かれた本である。
著者である広瀬弘忠氏は、災害・リスク心理学の専門家。
国や公共機関、地方自治体や企業から依頼され、
防災・減災のための研究調査を行っている災害研究の第一人者である。
そもそも地震や洪水、火災などの災害に突然遭遇したとき、
自分の身を守るために素早く行動できる人は驚くほど少ないという。
本書によれば、
「地震や災害に巻き込まれても、多くの人々はパニックにならない」とある。
東日本大震災直後のビッグデータによる人々の動線解析でもそれは明らかだ。
携帯やカーナビのGPS情報、被災者や帰宅困難者のTwitter発信などを重ねあわせ、
その動きをプロットしていくと、ある地域では地震直後にはほとんど動きがなく、
多くの人々は実際に津波を目撃してから初めて避難行動に移り、
結果、避難に遅れが生じたことが解明された
(『NHKスペシャル”いのちの記録”を未来へ~震災ビッグデータ~』より)。
どうしてこのような事態が起きてしまったのか。
この”逃げ遅れの心理”の原因は人の心にもともと備わっている働き、
「正常性バイアス」にあるという。
私たちの心は、予期せぬ異常や危険にたいしてある程度、鈍感にできているそうです。
日常生活で何か変わったことが起きると、そのたびに反応をしていたら心が疲弊してしまうからだとか。
ある限界までの異常は、正常の範囲内として処理する心のメカニズムが、
「正常性バイアス」なのだ。
しかし、私たちの心を守るための機能が非常事態の際、
「まだ大丈夫」と危険を過小評価し、避難するタイミングを奪ってしまうことがあるというのだから驚きだ。
広瀬氏によれば
「いつ大地震や災害が起こるか、わからない時代だけに、
どのような災害が起こっても、それをより軽く受けながし、
迅速に回復する”災害弾力性”をもつ必要がある」という。
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